廃炉時期 見解に相違 福島第1原発着手遅れ 東電 2051年目指す立場堅持 NDF 完了目標は実現困難

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東京電力福島第1原発の溶融核燃料(デブリ)の本格的な取り出し開始がずれ込むこととなった29日、当事者の東電と、技術面で同社に助言する原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)の間で、廃炉完了時期を巡る見解の違いが鮮明になった。東電は政府と示す廃炉工程表(中長期ロードマップ)で目標に掲げる「2051年」の完了を目指す立場を堅持する一方、NDFの幹部は「元々困難だ」とし、東電の計画を精査する姿勢を示した。福島県民からは安全を最優先とした廃炉の進展を求める声が上がった。
「ロードマップを守るのはわれわれの責務だ」。東電の小野明廃炉責任者は午後の記者会見でこう言明した。3号機から着手する本格取り出しの準備に12~15年程度を要するとした。ロードマップで示した2051年の期限まで残り26年。小野氏は「物理的に考えて難しいと思っているが、(3号機から)後ろの工程は見えておらず目標は下ろさない」と主張した。
「元々困難だと感じている。検討を進めれば進めるほど、より深刻に分かってきた」。NDFの更田豊志廃炉総括監は東電と別に開いた記者会見で、2051年とする廃炉の完了目標の「実現性」に対する現状の見立てを赤裸々に語った。
目標見直しの必要性には「十分な判断材料はない」と踏み込まなかったが、現在有力視される取り出し方法も「小さな可能性が見えたというような感じ」と述べるにとどめ、目標実現のめどが立たないとの認識を強調した。1~3号機の原子炉内にあるデブリは推計で約880トン。昨年11月と今年4月に2号機で試験的に採取できたのはほんの0・9グラム程度にとどまる。■県民「安全最優先に作業を」
廃炉の最難関とされるデブリ取り出しの道のりは険しく、県民は計画の行方を注視している。
「本格取り出し開始の遅れは想定内。ただ、2051年までに廃炉は終わらないだろう」。福島第1原発が立地する双葉町の浜野行政区長を務める無職高倉伊助さん(69)は、廃炉完了時期を変更しない東電の姿勢に懐疑的な見方を示す。前例のない作業を進める以上、想定より長い時間がかかることは理解している。「廃炉完了時期を目標に作業するのではなく、住民の帰還や移住・定住に影響しないように注意を払って作業して」と注文した。
廃炉の成否は県民生活や産業振興にも影響する。福島市土湯温泉町の旅館山水荘は宿泊者の2割弱が訪日客だが、処理水放出に反対の動きが広がった中韓からの客はごくわずか。社長の渡辺利生さん(36)は「東電だけに任せず、国も合同で取り組む姿勢を維持してほしい」と求めた。