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ジビエ(野生鳥獣肉)をもっと身近なものにしたい―。福島県猪苗代町出身の料理人・平山真吾さん(40)は11日、郡山市の市街地でジビエ料理をメインに扱う料理店「四季彩
平山」をオープンする。合わせて県内初となるジビエの処理や加工を行う施設を今秋にも整備する構想を掲げる。自ら狩猟した肉を市内外で流通させ、専門人材の研修の拠点にする考えだ。関わる人を増やし、県民に魅力を伝えることで、東京電力福島第1原発事故発生後の影響を受けた駆除や利活用の機運を高めたいと願っている。
オープンを控えた新店に屋久島の巨木で作ったいろりが据え付けられた。ジビエをはじめ、キノコ、山菜など旬の食材のおいしさを引き出すため、最高の調理法を取り入れる。素材に火を入れながら、自ら山を歩き、見つけた自然の食材の魅力を来店者に伝えたい―。平山さんは開店後の風景を思い描く。
秋を目指して準備しているジビエ用の処理施設は食品衛生法に基づき、衛生的に解体や加工できる機器を備える。比較的個体差が大きく、難しいとされるジビエを安全に、迅速に加工できるようになるという。ジビエ料理への関心は高まっており、将来的には県内各地の飲食店などへの販売も考えている。県内を中心に同様の施設の整備を検討する事業者らが希望する場合、視察を受け入れる考えだ。「県内で食文化としてのジビエ料理の裾野が広がる場所になれば」と期待を寄せる。
商都郡山で人気のイタリア料理店を営んでいた平山さんが、ジビエの道に踏み出したのはさまざまな料理人や生産者との出会いがきっかけだった。食材を求めて友人らと県内外の山野を歩く中で、野生鳥獣が田畑の実りを食い荒らす被害の深刻さを目の当たりにした。「自分にできることは何か」。新型コロナ禍での営業休止を機に、旅をする中で全国にあるジビエの処理施設を訪れ、現在の構想に思い至った。
「イタリアンの枠を超えて食材本来の特長を最大限生かせる料理を提供したい」。自ら狩猟した最高のジビエを届けようと狩猟免許を取得。10年にわたって地域から愛されてきた店を3月に閉め、新店の開業準備を進めてきた。
原発事故による放射性物質の影響を受け、県内ではイノシシ、ツキノワグマ、ヤマドリ、カルガモ、キジ、ノウサギの6種類は国による制限が今も続く。利活用が限られる現状が捕獲や駆除に影を落としている。新店では当面、県外のシカやイノシシを使った料理を振る舞う予定だ。処理施設整備後は制限のない野生鳥獣を市内で捕り、地元のジビエのおいしさを発信し、利活用を広げる一助とする考えだ。「ジビエに対するイメージが変わるきっかけになれればうれしい」と新たな挑戦への思いを語った。