福島のニュース
東京都の日本武道館で15日に行われた全国戦没者追悼式で、福島県代表として献花した三春町遺族会長で県遺族会理事の岩渕康晃さん(82)は、35歳で戦死した父武雄さんをしのび、静かに花を手向けた。終戦から80年。世界の一部は戦禍に包まれ、混迷を極める。現代を新たな戦前にしないため、平和の尊さを次世代に語り継ぐ重みを改めて感じた。語り部としても活動しており、遺族の半数超が戦後生まれとなった今、「力の続く限り活動する」と誓う。
海軍の軍人だった父親の姿は写真でしか知らない。岩渕さんが1歳10カ月の時、サイパン島で亡くなったからだ。一緒に遊んだ記憶はなく、出征する前に残していた軍服や写真、勲章が父とのつながりだった。ふとした時に父の在りし日を思い浮かべて育った。
成長して三春町遺族会に入会した。その後に語り部の活動を始めたのは「同じような寂しい思いを、これからの人々にさせてはならない」との使命感に突き動かされたから。
父の体験を基にしている。頼りにしているのは戦地から遺族に戻された日記だった。岩手県出身だった武雄さんは三春町出身の母トヨさんと結婚。筆まめだったため、従軍時の様子も書き留めていた。1943(昭和18)年に船でサイパンに向かい、陸戦隊として島の西海岸にあるガラパンを守る任務に就いたという。非業の死を遂げたのは1944年7月。遺骨収集で訪れ、現地で過酷な戦闘の様子も聞いた。
毎年、三春町の小学校で戦争にまつわる体験を講演している。戦争の恐ろしさや悲惨さが伝わるよう、児童に極力、ありのままを語っている。子どもたちから「家族と一緒にいられ、みんなでご飯を食べることができるのはとても幸せ。平和って大切なんだね」との感想を聞くことができると、うれしいという。
戦後80年を迎え、戦争体験者が次々に姿を消し、遺族会も高齢化が進む。今年に入り県外の遺族会にも出向き、他の語り部に参考にしてもらうため語りを披露した。一人でも多くの語り手を増やしたいとの思いがあった。
岩渕さんは「戦後80年となり、戦争の記憶が薄れつつつある。節目の年に、平和の誓いを新たにするとともに、遺族として語り部活動に力を入れ、思いを次代に継承していきたい」と力を込める。■遺族会先細り…対策急務
悲惨な戦争の記憶と教訓を風化させず、いかに継承していくかが課題となる中、遺族会の先細り対策が急務となっている。
県によると、県遺族会の会員数は今年2月1日現在4279人で、戦没者の子や兄弟・姉妹、おい、めいを中心に構成されている。一方、若い世代の会員は孫284人、ひ孫1人で、会員の平均年齢は約86歳に上っている。
県遺族会は不戦の誓いと平和の尊さを後世に伝え続ける体制を維持しようと各地で孫世代中心の青年部の設立を進めている。将来的には世代交代し、主要な業務を担ってもらいたい考えだ。
ただ、2013(平成25)年に福島市や郡山市、東白川郡など六つの遺族会で青年部が誕生したものの、これまでに活動を始めた青年部は13にとどまる。残る24の遺族会での青年部の組織化に向けては、若い世代の意識を高める取り組みが必要となる。
全国戦没者追悼式に参列した南会津町の君島勝美さん(86)も「身内を亡くしたからこそ伝えられる思いがある」と孫世代の活躍を期待する。世界で今も紛争が絶えない現実を憂い、平和の願いを一層強くする。「大切な人を失う悲しみを自分事として捉えれば、二度と戦争を起こしてはならないと思うはずだ」