福島のニュース
明治三大絵師の一人である豊原国周が戊辰戦争の最中、ひそかに福島県の会津藩を応援する浮世絵を描いていたことが分かった。「善悪鬼人鏡」という旧幕府軍と新政府軍の戦いを描いた風刺画に、会津藩とみられる役者絵があった。滋賀県大津市の風刺画研究家・栗田博子さん(57)が発見した。
当時は庶民が政治について言及すると罰せられる可能性があった。そのため豊原は単なる役者絵に見せかけながら、本当はどの藩をモデルにしているかヒントをちりばめていた。
会津藩と見られる浮世絵には「佐嶌典覚」と副題が付き、着物には2つの柄が描かれている。一つはカタカナの「ア」で花びらを現し、「イ」がその周りを囲む。もう一つの柄は役者である中村芝翫の定紋「祇園守」によく似ている。だが、本来は巻物である部分が会津藩の名産品のろうそくになっている。祇園守が定紋である中村を役に選んだのも、会津藩が京都守護職として新政府軍から京都を守っていたことを表しているという。
会津藩は新政府軍に「朝敵」とされた。それは京都で暴れる新政府軍を取り締まっていたからだという理由を、江戸の庶民が分かっていたことを示している。栗田さんは「口には出せない庶民の本音が浮世絵に残っている」と話した。
栗田さんは若林悠のペンネームで、善悪鬼人鏡について紹介する著書「幕末〈暗号〉解読記」を7月に発行した。直木賞作家の中村彰彦さんが監修している。全国の書店や通販サイトなどで取り扱っている。