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体が不自由な福島県須賀川市出身の松川力也さん(26)が展開する障害者向けオンライン就労移行支援が好評だ。利用者は常に自宅にいながらインターネット上の「教室」に通い、就職に必要な素養を学べる。自身の経験を基に障害者目線で支援体制と教育課程を整えた。市内に拠点を置いて昨年末に始めてから7人が就職した。支援機関の少ない地域で障害者の就職・雇用を促進する有効な手段だとして9月には天栄村にも拠点を増やす。問い合わせが相次いでおり、東北地方全域での事業展開を見据えている。
事業のイメージは【図】の通り。ネット上の教室でワープロや表計算ソフトの使い方、障害の特性を理解する講座などを受けることができる。300種以上の自習用プログラムもある。講師は理学療法士や言語聴覚士らだ。
現在、福島県や関東、九州などの約30人が登録・利用している。教室に同時に通っている生徒が「アイコン」などで画面上に表示され、メッセージのやりとりもできる。通所型施設のように仲間意識を得られる趣向だ。2026(令和8)年末までに天栄村も含め五つの事務所を構える構想を描く。身体的、精神的な要因で外出が困難な障害者は多い。自宅近くに就労支援機関がないなどの理由からオンラインによる支援は需要があり、問い合わせは県内外から寄せられる。パニック障害で外出が難しい女性(25)=埼玉県在住=は半年ほど通い、大手人材派遣会社へ就職した。「自分は一人じゃないんだという安心感があった」と振り返る。■自身も半身まひ、経験生かす
松川さんは14歳の時に脳内出血で左半身にまひが残った。学生時代には障害を理由にアルバイトを諦めた経験がある。2022年に会社「リスタ」を設立。就労支援関係のサービスを提供してきた。現在、須賀川市と首都圏を行き来する生活を送っている。
県内民間企業の障害者雇用人数は2024年6月現在、5817人で過去最多を更新した一方、法定雇用率達成企業の割合は54・8%。松川さんはさらなる障害者雇用を目指す。「町村部でも就労支援の存在を知ってもらい、より多くの人が社会で活躍できる機会を創出したい」と願う。■「完全在宅」にこだわる
国や県と数カ月協議
松川さんは就労移行支援事業を始めるに当たり、全て自宅にいながら学べる形にこだわった。オンラインを活用する事業所は県内外にあるが、定期的に通所を求める所がほとんど。理由は健康状態などの確認のためという。「運転できない人や、外に出るだけでも負担が大きい人がいる」として、通所の負担がない形態を模索した。
就労移行支援は、サービス料に当たる報酬を自治体と国民健康保険団体連合会が支払う。松川さんが報酬を申請したところ、利用者が通所しないことや、職員が利用者の居住地近くにいないことなどを理由に円滑に進まなかった。安全上の観点などを巡って数カ月間にわたり国や県などと協議を重ね、職員が月に1度、利用者の元を訪問したり、利用者が住む地域で職員を雇ったりすることで理解を得た。
双極性障害がある会津若松市の女性(40)は「以前、車でパニックを起こしたことがあった。定期的に出向く必要がある事業所はハードルが高い」とし、「完全在宅」の利点を指摘する。松川さんは「全ての人に寛容な社会づくりに貢献したい」と力を込める。