マダガスカルと福島の絆(上) 福島県郡山市で学び母国に 医療機器管理40人以上 協会設立、技術力底上げ

  • [エリア] 郡山市
マダガスカルと福島の絆(上) 福島県郡山市で学び母国に 医療機器管理40人以上 協会設立、技術力底上げ

福島のニュース


壊れたCTスキャン、滅菌器の不具合により使用できない手術室…。アフリカの島国・マダガスカルは貧困にあえぎ、国民は十分な治療を受けられない事態が続いている。そんな窮状を改善しようと、福島県民が国際協力機構(JICA)とともに医療機器や出産、教育などの技術や知識を伝え、命を守ろうとしている。今月上旬、現地を取材し、福島との絆を見つめた。(本社整理部・白岩祐樹)
北西部の都市・マジュンガにあるマジュンガ大学病院に置かれた唯一のCTスキャンは、非常用電源装置が壊れ、放置されていた。保守点検する人材が不足し、故障しやすく、修理する部品も技術者も限られている。他の地域も同様の状況だという。
先進国で助かる命が、この地では危機にひんする。マダガスカルの平均寿命は男女ともに60代前半。日本と比較し、約20歳短い。機材をメンテナンスできる人材育成が急務となっている。JICAの依頼を受けて貢献しているのが医療関連事業を手がける郡山市のエア・ウォーター東日本福島医療営業所だ。1984(昭和59)年から途上国の医療関係者を郡山市に招き、1カ月から2カ月程度、保守点検の技術を教えている。研修生は模擬手術室の心電図や生体情報モニターを使い、ノウハウを磨く。これまで、40人以上のマダガスカル人が受講した。
講師を務める福島医療営業所所属の臨床工学技士、大内学さん(67)は機器を分解し、電気回路や基板の壊れやすい箇所を説明してきた。基礎知識が乏しい人も多い。物理現象を解説する動画を自作し、主な医療機器ごとに電圧の計測や不具合の原因の調べ方を指導した。
郡山市で得た学びは技術者の能力として芽吹いている。市内で研修を受けた、マジュンガのペザガ大学病院メンテナンス担当のファナンビナンツォア・アンドリューさん(42)は学生への保守管理技術指導を担い、地域医療を支えている。「整理、整頓の基礎を重んじる大内さんの教えを院内で徹底している」と話す。
さらに技術力の底上げを図ろうと教え子たちは昨年2月、「医療機材保守管理技術者協会」をマダガスカルに設立した。島国であるが故に、他国と連携しづらい。国内の技術者同士の連携を強化し、保健省への要望や研修の実施を視野に入れる。ザフィンツァラマ・ガブリエル協会長(38)は「郡山での教え、つながりが生きている。協会を母国の医療の発展の礎にしたい」と見据える。
大内さんはJICAのマダガスカル視察に同行。医薬品の購入が優先され、保守点検費に充てる予算を確保するのが難しい状況を再確認した。部品が購入できず、機材を修理できないケースが多いことも知った。
CTスキャンが壊れていたマジュンガ大学病院にはJICAが来年2月以降、新しい機種を提供する。大内さんは「お金がなくても、立派なメンテナンスはできる」と強調。機器を使用する看護師らに砂ぼこりがたまらないよう、小まめな清掃の徹底を訴えた。「現地の協会と連携し、フォローしていく。多くの命を救うために、福島から後押ししたい」と言葉に力を込めた。※マダガスカル
面積は日本の1・6倍に当たる58万7300平方キロメートルで、島としては世界で4番目の広さを誇る。1960(昭和35)年にフランスから独立し、約3200万人が暮らす。世界の最貧国の一つとされる。クーデターによる政治危機に伴う経済の停滞が、新たな政情不安を生む悪循環を繰り返してきた。労働人口の80%が農業に従事している。日本はバニラの9割をマダガスカルから輸入している。