福島のニュース
人工知能(AI)は、企業や自治体のデジタル改革(DX)をもたらした。情報技術(IT)業界の競争が激化する中、1人の青年が奮闘している。会津大4年の能勢航羽[かずは](22)は弱冠20歳でITコンサルタント「StoD」を福島県会津若松市に起業した。学生ベンチャーだ。
「単純作業を自動化すれば、人間そのものの価値をより生かすことができる」
同社は地域密着型で企業の課題を解決し、業務の効率化を図るための特注AIの開発を手がける。コンサルティングから始まり、企業の実情や業務の詳細を聞き取った上で、望ましいサービスをゼロから開発する。いわば、オーダーメード。地方のIT人材不足が課題となる中、サービスを提供した後も企業の支援を続けている。
「社長という肩書に憧れて起業したが、現実はそんなに輝かしいものではなかった」
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大熊町生まれ。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故を受け2012(平成24)年、会津若松市に移り住んだ。コンピューターやプログラミングが元から秀でていたわけではない。小中学生の頃にロボコンやプログラミングの大会に参加したことはあったが、初心者クラスで入賞する程度だった。一方で、「新しいもの」への興味は幼い頃から人一倍強かった。
高校卒業後の進学先を決める際、「最先端の分野を学びたい」と軽い気持ちで地元の会津大を選んだ。「入学当初は授業内容が全く分からなかった」と苦笑する。高校時代は硬式テニス部に打ち込み、パソコンにはほとんど触ったことがなかった。会津大の授業では教員の指示通りに課題をこなし、一定の結果は残すが、裏側の仕組みまでは理解が及ばなかった。振り落とされまいと、必死に授業に食らい付いた。
「いつか起業する」。その思いは入学当初から抱いていた。具体的な将来像は見えていなかったが大学2年から3年にかけて、学内で開かれた創業支援セミナーに参加してみた。顧客をどう設定するか、どのような価値を提供するか、既存の業者との違いをどう打ち出すか、会社を経営する上で必須の法律とは…。分からないことだらけだったが、知的好奇心をくすぐられた。起業につながる知識を貪欲に吸収した。
セミナー担当者に独自の事業構想を提出しては駄目出しを受けて落胆する―。この繰り返しだった。エクセルのマクロ塾、会津大生と企業のマッチング、派遣サービスのシステム開発…。思い付いては霧散したアイデアは数え切れない。「自分では良いと思っていても、顧客に提供すべき『本当の価値』を見いだせていなかった」
起業に必要な知識や技術、資格を手にしようとプログラミングの勉強に打ち込んだ。ただ、やりたい事業が定まらず「自分にとって意味のあるものなんだろうか」と迷いも生じ、悶々[もんもん]とする日々が続いた。
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起業の準備と並行し、アルバイトを掛け持ちした。塾では数字を表に打ち込んだり、資料を作成したりする事務に精を出した。フリーランスのエンジニアとしてはシステム開発の下請けを担い、アプリ制作などを手がけた。
創造性が全く異なる二つのアルバイトをこなす中で、能勢はふと思った。
「仕事は、人間のスキルをどれだけ生かせるかが重要ではないか。ITを活用して業務の効率化を図れば、その人にしかできない仕事に多くの時間を割けるようになるんじゃないか」
ようやく、進むべき道が見えたような気がした。(文中敬称略)