福島のニュース
福島市の認定NPO法人シーエスアールスクエアは11月にも、ベトナムの農村部を自然に親しむ観光「エコツーリズム」で活気づける活動に乗り出す。風光明媚[めいび]な景観や産物を生かして観光客を呼び込み、住民の新たな収入源を生み出す。東南アジアと日本の架け橋として学用品の寄贈や学校建設など教育面から発展途上の農山村を支えてきた。「子どもが住み続けられる古里を築きたい」。生業[なりわい]の面から地域の自立を後押しする新たな挑戦が始まる。
プロジェクトの舞台はベトナム中部、古都フエ市の郊外にある農村部「ホアチャウ」の小さな集落だ。海水と淡水が混じり合う汽水湖に面してマングローブ林が茂り、新鮮な魚介類が豊富に取れる環境にある。
一方、約720世帯3200人余りの住民の暮らしはつつましい。貧しい家庭の世帯年収は日本円で15万円ほど。観光客でにぎわうフエ市街など発展する都市部とは異なり、出稼ぎで地元を離れる若者も少なくないという。
NPOが活性化の手段として着目したのが、自然との調和を掲げた観光地づくりだ。ベトナム政府の「海外NGO登録」認証を取って現地の行政機関と交渉を進めてきた。今後は湖を周遊するボートや散策用の自転車を提供し、宿泊用テントを整備する方向で調整している。収益面が安定するまでNPOスタッフが2カ月に1度のペースで現地に入り、観光関係者と協力して誘客やもてなしのノウハウを蓄積、伝授していく。
行政機関のトップや住民代表を交えたエコツーリズムの運営組織を設け、住民だけで継続できる在り方を目指す。将来的はより内陸部にもエコツーリズムの理念と成果を広め、少数民族の文化に触れる機会などをつくる構想も温めている。
NPOは2017(平成29)年、元小学校教師で理事長の宍戸仙助さん(73)=福島市=が設立した。旧東舘小(矢祭町)で校長をしていた2010年、ベトナムの隣国ラオスの小学校を訪ねたのが、東南アジアの支援に関わる契機となった。翌年の東日本大震災の後にラオスなど各国から日本や福島県に寄せられた善意も励みとし、定年退職後にNPOを立ち上げた。
活動は賛同した日本の企業や個人の寄付、寄贈に支えられている。これまでベトナム各地に飲用水の浄化装置を設け、学校に教育用品を提供。経済的事情で就学の難しい児童には返済不要の奨学金も贈った。4月には格闘家の武尊[たける]さんの協力を得て北部の農山村に小学校を完成させた。
宍戸さんは現在も年間5回以上ベトナムに渡る。普段は支持を得るため、日本各地の小中学校などを講演して歩いている。27日も東京都内で講演し、累計回数は600回を超える。「やれることはたくさんある。日本、海外の子どもが優しく健やかに育ってほしい」との願いを胸に今後も両国間を行き来していく。
NPOへの問い合わせはメール
shishido.csr2@gmail.com