技術を継承、未来に種を 県民の食を支える生産者・生産団体 困難を乗り越え福島県農業賞に輝く

  • [エリア] 郡山市 喜多方市 北塩原村
技術を継承、未来に種を 県民の食を支える生産者・生産団体 困難を乗り越え福島県農業賞に輝く

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第66回福島県農業賞に輝いた生産者・生産団体は幾多の困難を乗り越え、県民の食や生活を支えている。ただ、高齢化や後継者不足、天候不順など課題が山積する。郡山市でキノコを栽培している有限会社ハッピーファーム、喜多方市でキュウリを作付けしている石井達也さん(36)・有希さん(36)夫妻は、培った技術を次世代に伝え、地域農業をさらなる高みに押し上げようとしている。■有機栽培を若手に指南
農業経営改善部門
有限会社ハッピーファーム
郡山
県内の農業復興には若者の力が欠かせない。ハッピーファーム社長安田潤一さん(62)は、東京電力福島第1原発事故発生後の苦い経験を踏まえ、県指導農業士として後進の育成に力を注いでいる。
原発事故による風評にさらされた。国産おが粉や乾燥ビール酵母で作った菌床から生えるナメコ、キクラゲは好評だったが、県外の業者から敬遠され売り上げは3分の1に減少した。「会社を運転するための借入金を返済できない」。事業存続の瀬戸際に追い込まれ、打ちひしがれた。
そんな時、励ましてくれたのが県内の取引先だった。「一緒に闘いましょう」。無力感に覆われた心に寄り添う一言が、やる気を奮い立たせた。作物に含まれる放射性物質を測定。自社のホームページで公表し、安全性を訴えた。
より一層の安全性の確保が必要だと考えた。各地の研修会などで次代を担う若手に有機栽培のノウハウを伝えている。2019年には郡山、須賀川両市の有機栽培農家を中心とした団体を設立。地域内で生産者が消費者に直接販売できる仕組みを整えた。「今後も安心・安全な農業を追求していく」と誓っている。■SNSで就農後押し
新規就農部門
石井達也さん・有希さん
喜多方
2016(平成28)年に農業の道に進み、キュウリの収穫量を4年間で6割ほど伸ばした。元美容師の達也さんは、新規就農しやすい環境を整え、「仲間を増やし、喜多方市をキュウリの一大産地にしたい」と夢を描く。
北塩原村でキュウリを作っている父親の勧めを受けて転職した。実家での修業時、病害虫の被害に悩まされた。5年間にわたり対策を学び、喜多方市に設けた6棟のパイプハウスには病害に耐性のある品種を植えた。毎朝、新芽を摘み取って栄養がキュウリに蓄えられるよう工夫を重ねた。
さらにイチゴの栽培方法からヒントを得た。魚を乾燥させて作った粉をまき、根を丈夫にすることに成功した。キュウリの生育を促し、甘みとみずみずしさが増したという。来年にはハウスを4棟新設し、増産を加速させる。
「努力した分だけ見返りがあるのがキュウリ栽培」と魅力を語る。農作物を育てる醍醐味[だいごみ]を多くの人に知ってもらおうと、仕事の中身を交流サイト(SNS)で発信している。
自身の経験や栽培法を広めることで異業種からの参入を促進する狙いもある。「農業を始めようと考えている若い人を応援していきたい」と意欲を示す。