福島のニュース
福島県内で稲刈りが佳境を迎え、コメの集荷競争が過熱している。JAは目標数量の確保に向け、担当者が農家を1軒ずつ回る“行脚”を重ねるなど異例の動きを見せている。民間業者が高価格で農家に出荷を促しており、必要量が集まらない懸念が背景にある。専門家は「競争が続けば米価は容易には落ち着かない」と指摘する。生産者は地元の農業を支えてきたJAに引き続き出荷する意向はあるものの、一部は高値の民間業者に目移りしている。
相馬市にあるカントリーエレベーター(乾燥調製貯蔵施設)に、同市や南相馬市などで収穫された精米前の新米が次々と運び込まれる。JAふくしま未来(本店・福島市)は全体で主食用米100万袋(1袋当たり30キロ)の集荷を目指す。営農指導員らが生産者を訪ね、出荷を直接依頼する異例の対応を取っている。コメを作るJA役職員宅にも9月以降、民間業者が買い付けに訪れ、高値を提示してきた。組合長の三津間一八さん(69)は競争激化を肌で感じており、「丁寧に理解を求めたい」と話す。
JA福島さくら(本店・郡山市)は当初、生産者に払う仮払金「生産者概算金」をコシヒカリ1等米1俵(60キロ)当たり2万円台後半と想定したが、3万円に上げた経緯がある。支店の窓口対応や各種会議、営農指導に合わせた出荷依頼を強化し、販売実績を踏まえた清算金を翌年に支払う旨も強調している。
民間業者も余念がない。二本松市の樽井商店は農家からの仕入れ値をJAの概算金より高くし、店頭販売価格は前年同期約1・5倍とした。社長の樽井功さん(69)は「まずは在庫確保が最優先。本当は消費者に寄り添った価格にしたいが…」と打ち明ける。
獲得競争激化や概算金の上昇により、銘柄米の平均価格は新米の出回り後も5キロ4300円程度の高値圏で推移している。全国農業協同組合連合会(JA全農)の金森正幸常務理事は1日の記者会見で、消費減退の懸念を明かし、営農継続と安定的な消費が両立する価格水準を探る必要があるとの考えを示した。
弘前大農学生命科学部の石塚哉史教授(農業経済学)はJAや業者の動きを踏まえ、「年度内は以前の米価に戻るのは難しい」とみている。
生産者の間では出荷を巡る思いが交錯する。相馬市で農業法人を経営する男性は管轄のJAふくしま未来に毎年ほぼ全量を出荷してきたが、民間業者にJA出荷より高い買い取り額を示された。「どちらに出すか気持ちが揺れる」と今も悩む。
猪苗代町で15ヘクタール以上作付けする男性は引き合いのあったJA以外の業者のうち最高値先に出荷を決めた。「これまでカツカツでコメを作ってきた。売れる時は少しでも高く売りたい」と言い切る。
矢祭町の矢祭興産は1俵当たり約3万2千~3万3千円を示した外食産業商社などとの取引が半数を占める。近年まれにみる金額の高さに、買い控えなどによる米価変動を見据え、既に数年先までの出荷契約を結んだ。

