【ひと模様】91歳新聞配達 渡辺芳江さん(福島県伊達市) 雨ニモ雪ニモ暑さニモマケズ 「役立つこと生きがい」

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【ひと模様】91歳新聞配達 渡辺芳江さん(福島県伊達市) 雨ニモ雪ニモ暑さニモマケズ 「役立つこと生きがい」

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福島県伊達市霊山町で、91歳の新聞配達員が元気に働いている。渡辺芳江さんだ。手押し車に朝刊を積み、雨の日も雪の日も30年以上にわたり、歩いて配っている。新聞やチラシがたまった郵便受けに気付けば、安否を確認する頼れる「おばあちゃん」。100歳になっても続けると目標を立てている。「地域の役に立っていると思えることが生きがい」と柔和な顔を見せる。
残暑の厳しい9月上旬の早朝。1人暮らしの渡辺さんは、霊山町中心部の掛田地区にある自宅を出発した。地方紙や全国紙、業界紙計40部を詰めた重そうな段ボールが手押し車に載っている。途中には急勾配の上り坂が待ち構える。しっかりとした足取りで進み、1・5キロほどの道のりを1時間30分かけて回る。
「ご苦労さま」。住民から声をかけられると、疲れた様子を見せずに「ありがとう」と気さくに応じる。天気予報の確認を欠かさず、悪天候の日は早めに仕事に取りかかる。配達の遅れはほとんどなく、病気やけがで休んだこともない。「新聞配達が日課になっていて、苦と思ったことはない」とほほ笑む。日中には畑仕事に精を出すほど達者だ。
7人きょうだいの四女として伊達市保原町で生まれた。中学卒業後、親戚が経営する医療機関で医師の助手として勤務した。30歳の結婚を機に霊山町に移り住み、子ども2人に恵まれた。新聞配達員の不足を知り、58歳の時に配達を始めた。
夫の栄さんが会社を定年退職してからは夫婦二人三脚で取り組んだ。しかし数年後、栄さんは胃がんや脳梗塞を患った。2024(令和6)年3月に亡くなるまでの約20年間、介護しながら朝刊を届け続けた。配達作業は夫との思い出に浸れる、かけがえのない時間でもある。
そんな渡辺さんは、地域に安心感や活力をもたらしている。ある家庭で数年前、数日分の新聞が残されたままになり、心配した渡辺さんが親類に安否を確認した。入院中だと分かり、事なきを得た。
一方、今年、両足の手術をした70代女性は渡辺さんが生き生きと働く姿に、リハビリを乗り越える力をもらったと振り返る。
卒寿を超えた今も、健康に不安はないという。親族は女性最高齢の新聞配達員としてギネス記録の登録を目指している。現在は英国の女性(88)が認定されている。次男の昌司さん(55)=福島市=は「長年、同じことを続けていて尊敬している」とたたえ、申請の準備を進めている。
渡辺さんは「配達を通じて地域の情報をいつまでも届け続ける」と意気込む。
新聞の魅力をPRする秋の新聞週間は15日に始まる。19日は戸別配達の重要性をアピールする新聞配達の日。