福島のニュース
9月に開始された人の生活圏に出没した熊への発砲が可能になる「緊急銃猟」制度を巡り、実際に携わる福島県内の関係者らからは運用に向けての不安の声が出ている。9日、福島市の荒川河川敷で環境省が県内で初めて開いた運用研修会。臨んだ参加者は、市街地で銃を扱うことの難しさやスピード感を持った対応への懸念を口にした。小規模自治体の職員からは人員確保が課題との指摘も。県内では今年、過去最多のペースで熊が目撃される中、危機感を抱く県民から早期の体制整備を求める声が上がる。
「発砲!」。福島市の荒川中流で行われた訓練。通行を遮断して安全を確保した設定の下、市長の許可が出たと告げられると、資格を有する市の専門職員が熊役の着ぐるみを着た関係者に模擬銃を構えるなどした。他に予期しない事態で中止などの複数パターンを想定。手続きなどを確かめた。
ただ、銃を手にする猟友会員は懸念が拭えない。研修は河川敷で行われたが、緊急銃猟の実施は人けのない場所に限らない。安全確認や避難誘導などの対策が市街地で確実に徹底できるかが課題となる。運用の手順を確認した県猟友会福島支部長の二階堂賢一さん(72)は「民家が多く、現場退避を強いられる市街地の適用は難しい」と改めて実感。別の会員も「現実的な対応なのか」と新制度への厳しい見方を示す。
発砲に対する心理的なハードルは高い。訓練後の非公開の意見交換で、二階堂さんは「誤射や建造物に過って当たった場合に刑事罰に問われるのか」と質問したが国側から具体的な回答はなかったという。
ツキノワグマは時速40キロで走ることができ状況が変わりかねない。今回の研修でも発砲などに必要な証票の受け渡し、留意点の伝達など実施に当たり、多くの手続きがあることが示された。対応のスピードアップを図るため訓練を重ねる必要性も浮き彫りになった。参加した木幡浩市長は「迅速にかつ正確に対応できるかが課題」と受け止めた。
安全確保には自治体職員、県警、消防など多くの人員が必要になる。磐梯町の担当者は「操作する職員を含め必要な人手を確保できるか分からない」と話した。
環境省の担当者は「引き続きより良い運用を模索していく」と語った。
子ども見守り運動に力を入れている同市の飯坂婦人会長の村島勤子さん(64)は9日の訓練を踏まえ「子どもたちに危険が及ばないよう、早急に(緊急銃猟の)体制を整えてほしい」と求めた。■人里下りる個体増えると予想
県全体で木の実凶作
県内の熊の目撃件数は過去最多で推移している。県警本部によると、6日時点で916件となり昨年同期を332件上回っている。県によると、餌となる木の実が県全体で「凶作」となっており、餌を求めて人里に下りてくる個体が増えると予想される。
県や市町村は対策を急いでいる。県は熊の移動経路となっている川での草木の刈り払いを実施。福島市の天戸川と摺上川、喜多方市の押切川、猪苗代町の観音寺川を対象に作業を進めている。いわき市は「ツキノワグマ被害防止プラン」を初めて策定。熊と遭遇防止や集落に誘引しないための対策などを盛り込んだ。今後、山間部にある川前、三和、遠野、田人の4地区で住民を対象とした説明会を開く。※緊急銃猟
9月1日施行の改正鳥獣保護管理法で制度化された。①危険鳥獣が人の生活圏に侵入・侵入の恐れがある②人への危害を防ぐため緊急措置が必要③銃以外で対応が困難④銃で住民らに危害が及ぶ恐れがない―の4条件を満たした場合、市町村長が銃猟での駆除を判断し捕獲者に委託できる。環境省の研修会は北海道下川町、秋田県横手市に続き3カ所目。

