福島のニュース
農村体験の場として重要な役割を果たしている農家民宿が福島県内で減少傾向にあり、観光客の受け入れなどに影響が出ている。農業者の高齢化や後継者不足などを背景に特に減少が顕著な地方では、教育旅行の招致などに支障を来すだけでなく、地域の活力低下や農家の収入減少などを懸念する声も上がる。中山間地の交流人口拡大などに有効として、県や市町村などは新規開設の促進や広域的な受け入れ体制整備など対策を強化している。■教育旅行が激減
県内で近年、農家民宿の減少幅が大きかったのは南会津地方だ。2019年には営業中の施設数が県内最多の81軒に上ったが、2023(令和5)年には半数以下の39軒まで減った。高齢化や後継者の不在で受け入れが負担になりつつあったところに新型コロナウイルス感染拡大が起き、継続を断念した農業者が多いとみられる。
受け皿の急減に伴い影響を受けたのが地域の観光の柱である教育旅行で、2019年に延べ5千人を超えた参加者数は2024年は450人程度にとどまった。特に、南会津町は農林水産省の「子ども農山漁村交流プロジェクト」のモデル地域として国内外からの児童・生徒を受け入れていたが、担い手の減少に伴い昨年、調整などを担った南会津農村生活体験推進協議会を解散した。
南会津町たのせ地区で「いろり屋」を開業する星広政さん(76)によると、地区に3軒あった農家民宿は現在では星さんのみになった。これまで分散して担っていた農村暮らし体験の受け入れなどに影響が出ている。滞在が減れば地域全体への周遊も少なくなるため、「地元への経済効果や、再訪者の獲得といった利点が薄れている」と声を落とす。■広がる影響
県や各農林事務所によると、各地方の農家民宿数は【表】の通り。営業中の軒数を集計しているなど集計方法が異なり、単純比較できない点もあるが、南会津地方に次いで会津地方の減少幅が大きい。教育旅行だけでなく、農業と観光を組み合わせるグリーンツーリズムの受け入れ基盤弱体化などが懸念されている。
会津若松市と喜多方市のグリーンツーリズムの関係団体事務局などによると宿泊の問い合わせが来ても対応できなかったり、規模が比較的大きな旅行を受け入れにくくなったりするケースもあり、市町村の枠を超えての宿泊先確保も視野に入れ始めている。民宿を営む関係者の一人は「若い世代の来訪が減ることは地域の活力低下にもつながりかねない」と危惧する。■新規開設促す
農水省は農村地域の活性化に向けた「農泊」の推進に力を入れている。地域ごとの取り組みのばらつきや専門人材の不足などを課題として捉えており、支援策を講じる考えだ。
県は宿泊数の伸びには滞在型観光の強化が鍵となるとみている。県南会津農林事務所は新規開設の後押しを強化。必要な準備や手続きをまとめたマニュアルを策定し、参入の間口を広げる。モデル集落の選定、関係者ネットワークづくりにも取り組む計画。担当者は「意欲がある関係者と協力しながら教育旅行などの受け入れの機運を再度盛り上げたい」としている。

