【ふくしま創生 挑戦者の流儀】ハンドレッド(福島県郡山市)社長・栢本直行(上) 実験動物に福祉を

  • [エリア] 郡山市 相馬市 南相馬市
【ふくしま創生 挑戦者の流儀】ハンドレッド(福島県郡山市)社長・栢本直行(上) 実験動物に福祉を

福島のニュース


現代医療の礎となってきた動物実験―。紀元前から始まり、19世紀に本格化したとされる。医薬品やワクチンの有効性確認、病気のメカニズム解明、新たな治療法や予防法の開発などに欠かせない。
マウスやラットなどを使った実験は、世界で年間7億回以上行われているとされる。ただ、動物への苦痛や失敗が伴うため、アニマルウェルフェア(動物福祉)の観点から代替手段を探る動きが出ている。■生物共生社会へ
負担少ない器具開発
栢[かや]本[もと]直行(47)は動物福祉への貢献を目指し、郡山市で動物実験用器具開発のベンチャー企業「ハンドレッド」を2016(平成28)年6月に立ち上げた。実験動物への負担が少ない器材を開発し、動物福祉に関心の高い米国や欧州で販路を広げている。
「人・自然・動物が共生できる社会を築きたい」。自然や動物が大好きだった少年の夢が今、世界へ羽ばたく。

◆◆◆



◆◆◆

南相馬市で生まれた栢本は父親の仕事の都合で幼少期を千葉県習志野市で過ごし、小学生の頃に郡山市に移り住んだ。
少年時代、南相馬市の祖父母の家を訪れては自身と同じ年に生まれたマルチーズと兄弟のように遊んだ。夏は虫網を手に山野を駆けた。採取した蜂に指を刺された時は痛みを感じつつ、蜂の体の構造や動きを食い入るように観察した。蚊に腕を刺されては、人に痛みを感じさせずに血を吸い上げる仕組みに興味を抱いた。「自然は豊かで、いつだって不思議であふれている」
安積高、中央大理工学部を卒業後、2003年、郡山市の動物用医薬品メーカー日本全薬工業に入社した。畜産家や動物病院に対する商品販売戦略の構築、研究内容の取りまとめ役を担った。
仕事を通して、産業動物や愛玩動物を取り巻く環境、経済活動の現場を目の当たりにした。「動物と人の公平な関係は築けないだろうか」。人の生活に欠かせない動物の扱いに葛藤を抱くようにもなった。
人と関わる動物が適切に命を全うするには、生産者と消費者、飼い主らをつなぐ仕組みが必要ではないか―。業務の合間を縫って、構想の具体化を思い描く日々。飼い主に捨てられるなどして保護された犬や猫の里親探しのコンサルティング業務を事業化するため、日本全薬工業を退社。2016年6月にハンドレッドを創業した。

◆◆◆



◆◆◆

創業当初は犬猫の里親探しの支援の事業化を目指したが収益性のめどが立たず、撤退を余儀なくされた。会社存続のため、落ち込んでいる時間はなかった。
「動物のための仕事をしよう」。創業の原点に立ち返り、長寿命化するペットの健康維持に着目し、犬や猫向けの健康食品の開発に着手した。病気の予防を考慮した機能性食品、サプリメントを開発、販売した。従業員を含め5人程度の小規模な会社だったが、理想の実現に向けて一つずつ事業を形にしていった。
奮闘を続けて丸3年になろうとしていた2019年、古巣・日本全薬工業の同僚で、旧知の仲だった技術者・村上誠(63)から連絡があった。
「実験動物用の採血針を取り扱わないか」
独自の事業を打ち出せずに、思い悩んでいた栢本に届いた吉報だった。(文中敬称略)