【ふくしま創生 挑戦者の流儀】ハンドレッド(福島県郡山市)社長・栢本直行(下) 逆境乗り越え世界へ

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【ふくしま創生 挑戦者の流儀】ハンドレッド(福島県郡山市)社長・栢本直行(下) 逆境乗り越え世界へ

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ベンチャー企業「ハンドレッド」を起業した栢本直行(47)。実験動物用の採血針を売り込む戦略を描いていた2020(令和2)年、世界は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の渦中にあった。混乱は国内外のビジネス環境の不確実性を高め、医療機器などの見本市や展示会は軒並み中止に。製品をアピールできる機会はことごとく奪われた。
知名度のないベンチャー企業の製品に対し、販売代理店を通じた売り上げは見込めない。「それでも製品を知れば、良さをきっと分かってもらえるはず」。心に灯をともし続けた。

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我慢の日々だったが、手をこまねいてばかりではいられない。前職の日本全薬工業の同僚で、ハンドレッドに合流した技術者・村上誠(63)と新たな製品開発に乗り出した。
会社が入居する福島県郡山市の郡山地域テクノポリスものづくりインキュベーションセンターに相談し、軟素材のスペシャリストである川上勝山形大工学部准教授(当時)の紹介を受けた。川上の知見を借りて2022年、実験動物であるマウスの生体を用いずに採血などの技術を習得できるシミュレーターを製品化した。
シミュレーターはシリコン素材で、マウスの柔らかい尻尾を忠実に再現した。尻尾の内部には血管を模した管を組み込んだ。付け根側は外径1ミリ、先端は0・5ミリと生体に近い異なる太さの極細の管を滑らかにつないだ。
精密な内部構造の一方、模擬の静脈内から採血と投与を繰り返し練習できる耐久性を兼ね備えていた。「動物のことを真剣に考えれば、製品開発の答えが見えてくる」

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反応が芳しくない国内での販売に見切りを付け、動物愛護の意識が高い米国や欧州に軸足を移した。実験動物の負担軽減につながる器具は「きっと理解され、支持される」。コロナ禍が明けた2022年、海外進出の第1弾として、シンガポールで開かれた医療機器展示会に出展すると、磨きをかけてきた製品に引き合いが相次いだ。
郡山市とドイツ・エッセン市の医療機器関連産業分野に関する覚書に基づく支援事業を活用し、2022、2023の両年にはドイツの展示会に出展した。研究機関の関係者らから好評を得て、現地の販売代理店と契約締結に至った。2023年11月には米国で、世界最大規模の医療機器展示会に参加。関係者が立て続けにブースに訪れては矢継ぎ早に質問を浴びせるなど、大きな反響があった。
「歩んできた道に間違いはなかった」。栢本の自信は確信に変わった。実験動物用の針やシミュレーターは海外の研究機関や製薬会社で受け入れられ、米国3社、ドイツ、フランス、デンマーク、オーストラリア各1社の販売代理店での取り扱いが決まった。
海外では2024年4月から販売を本格化させ、9月末現在、売上高は約7千万円に上った。国内では2021年から同時期まで販売し、売上高は2千万円程度と海外の3分の1以下にとどまり、海外需要の高さを裏付けた。
実験動物用器具の主要な販路が構築された米国で現地法人を立ち上げる構想を掲げる。実験動物用器具の開発にとどまらず、動物や人の医療関連機器の研究開発にも挑戦していく。
「動物のもたらす恵みを、人と動物が享受し合えるビジネスモデルを構築していきたい」(文中敬称略)