福島県内の給油所戦々恐々 暫定税率廃止議論加速 在庫残れば「含み損」 段階的引き下げ求める

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福島県内の給油所戦々恐々 暫定税率廃止議論加速 在庫残れば「含み損」 段階的引き下げ求める

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ガソリン税と軽油引取税に上乗せされている「暫定税率」の廃止法案は今秋の臨時国会で成立するのか。福島県内給油所にとって値下げは追い風かと思いきや、戦々恐々と身構えている。仕入れ値の高い現在の在庫が「含み損」となり、暫定税率廃止後に値下げして売るほど赤字が膨らむためだ。一般家庭や運送関係者から早期の値下げを願う声が上がる一方、値下げ前の買い控え、値下げ後の需要急増が懸念される。石油販売業界は段階的に引き下げるよう激変緩和措置を政府に求めている。
ガソリン税(揮発油税、地方揮発油税)と軽油引取税の暫定税率は【グラフ】の通り。1リットル当たりのガソリン税の上乗せ分は石油元売りが賦課した揮発油税24・3円と地方揮発油税0・8円の合わせて25・1円。軽油引取税は17・1円に上る。1974(昭和49)年に「当分の間」の措置として道路整備の財源に充てるために始まったが、財政事情の厳しさなどを背景に維持されてきた。
商圏の小さな中山間地にある給油所は在庫の「含み損」を危惧し、売れ残らないようにする動きが出ている。金山町で会津川口SSを運営する阿部石油店代表社員の阿部泰雅さん(69)は「在庫を最低限まで減らさないと赤字になる」と焦りを隠せない。レギュラーガソリンの貯蔵容量は1万リットル。通常は4割程度の貯蔵量で運用してきたが、廃止が決まれば月末には1~2割程度にまで減らす計画だ。近隣の給油所との値下げ競争が想定される。阿部さんは「今と同じ価格で売り続けるわけにはいかないだろう」と値下げ幅を思案している。
県石油商業組合によると、県内で組合に加盟する給油所数は1990年代の1200をピークに減り続け、今年9月末で548。このうち3割近くが山間部に位置する。各給油所が備える揮発油貯蔵容量の中央値は1万5千~2万リットル。幹線道路沿いの大規模店は1日で6千リットル超をさばけるが、山間部の小規模店は1日千リットルに満たないという。
都市部に近い立地条件では、価格競争力の高い市街地の給油所に利用者が流れやすい傾向がある。伊達市月舘町で給油所とスーパーを展開する「まるぎん」の社長中山貴徳さん(53)は利用者の減少を気にかける。燃料配達で高齢者らの暮らしに寄り添ってきただけに「住民の生活を考えると、店を閉めるわけにはいかない」と売り上げが減っても企業努力で営業を続ける覚悟だ。
地域の給油所は県民の生活インフラそのものだ。県石油商業組合の小林勝副理事長兼参事(67)は「特に山間部の給油所は暫定税率廃止の反動を受けやすい。(税額分を)価格に反映させ、値下げするのに時間がかかるだろう」とみている。■運送業界や一般家庭は歓迎
物価高がのしかかる運送業界や一般家庭は、暫定税率の早期廃止となれば朗報だ。浜通り交通(本社・楢葉町)副社長の寺崎和也さん(42)は「燃料費を抑えられた分は、設備投資や社員給与への還元などに充てられる」と受け止める。
福島市の看護師藤田理恵さん(42)は5人暮らしで、月のガソリン代は1万6千円ほど。「家計は苦しくなっており、早急に実施してほしい」と期待した。
税率廃止直前の買い控えから、急激な利用増加への反動が見通される。福島市内で給油所を経営する男性は、急な仕入れに対応できるか不安を口にする。県石油商業組合の上部団体となる全国石油商業組合連合会は流通現場の混乱を避けるため、補助金を拡充するなど段階的な価格引き下げを政府に要望している。■地方自治体の税収に影響も
暫定税率の廃止は地方自治体の税収減に跳ね返る。県によると、国から地方自治体に交付される地方揮発油譲与税は2025(令和7)年度の年間予算ベースにして県で5億3千万円の減、地方税(県税)の軽油引取税は108億円の減収となる見通し。いずれも一般財源に組み込まれており、廃止された場合、国と地方の税収が年間で計約1兆5千億円近く減るとされる。全国知事会などが代わりとなる恒久財源を政府に求めている。