【震災・原発事故14年】避難で存続危機…福島県浪江町・南津島の田植踊 若い力で大舞台へ 「古里に元気を」

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【震災・原発事故14年】避難で存続危機…福島県浪江町・南津島の田植踊 若い力で大舞台へ 「古里に元気を」

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東京電力福島第1原発事故被災地の民俗芸能団体が全国最高峰の舞台に立つ。福島県浪江町津島地区の南津島郷土芸術保存会は11月22日に東京都で開かれる全国民俗芸能大会に出演し、伝統芸能「南津島の田植踊」を披露する。原発事故でメンバーが避難し、存続が危ぶまれたが、地元出身の学生ら若い力で歴史をつなぐ活動が評価された。避難で全体練習が限られる中、「古里に元気を届ける」と結束する。2005(平成17)年以来、2回目のステージに向け練習に熱が入る。
「ヤーレヤレ」「ストトントン」。メンバーは19日、古里の恒例行事「肉まつり」のステージに出演した。再会を懐かしむ地域住民や、指導する会長の三瓶専次郎さん(76)=福島市に避難=が見守る中、唄や太鼓の音を響かせた。
南津島の田植踊は、県重要無形民俗文化財に指定されている「津島の田植踊」の一つ。約200年前から伝わるとされる。メンバーが着物をまとい、稲作の様子を唄や踊りで表現する。旧正月に地区内の家を回り、悪霊払いや五穀豊[ほう]穣[じょう]、無病息災を祈願してきた。
原発事故の影響で津島地区は帰還困難区域となり、メンバーは各地に避難。保存会は解散の危機に陥った。伝統継承のきっかけになったのは津島地区出身の今野実[み]永[のぶ]さん(23)=東北学院大大学院文学研究科1年=だ。避難先で通っていた二本松市の小浜中3年生だった2018年、三瓶さんの指導で田植踊を始めた。踊り手は男性のみとされてきたが、後継者探しに難航し、女性で初参加した。
古里を離れて暮らす津島の住民の前で踊りを披露すると、涙を浮かべながら「ありがとう」と感謝の言葉をかけられた。「地元の伝統芸能を何とかしたい」。民俗学を学ぶため東北学院大に進学。金子祥之准教授(40)に師事し、団体と学生との交流が始まった。2022(令和4)年から学生が保存会に加入。メンバー全体の約40人のうち、現在は半数の約20人が学生だ。今野さんは「悲惨な原発事故の中で出合えた奇跡の一つ。自分も含め、学生が田植踊を学べる機会になった」と語る。
大会は一般財団法人日本青年館が主催し、前身を含め約100年の歴史を誇る。戦後も一時中断を挟んで続き、今回で72回目。大会開始当初から各地の民俗芸能団体が出演を目指し続ける。出場団体数は数団体のため「狭き門」。民俗芸能の専門家が全国の団体の現状を精査し近年の活動を評価する。出演にはこれまでの活動の状況に顕著な功績が必要という。南津島郷土芸術保存会には7月に出場の吉報が届いた。
会場の日本青年館ホールには千人近くの観衆が詰めかける。今年は計4団体が臨む。今野さんは「踊りを通して津島の歴史や伝統を感じ取ってほしい。地元以外の人も加わる新しい伝統芸能の継承の形を発信したい」と決意する。