ふくしまコメ事情 コメ農家戸惑い広がる 首相交代で増産政策あいまい 準備してたのに…

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ふくしまコメ事情 コメ農家戸惑い広がる 首相交代で増産政策あいまい 準備してたのに…

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石破前政権が打ち出した、増産を含む政府のコメ政策は首相交代を機にあいまいになり、福島県内の生産者らに戸惑いが広がっている。高市早苗首相が24日に行った所信表明演説では「増産」の文言がなく、政府が従来の「需要に応じた供給」へ静かに後退した。価格暴落への懸念を踏まえた形だが、国による増産の後押しを前提に準備を検討していた農家らが翻[ほん]弄[ろう]される形に。コメ価格にどう影響するかも見通せず、販売関係者らは状況を注視する。
「納得できない」。会津若松市神指町のコメ農家中島吉昌さん(73)は国の方針転換とも取れる態度に憤りをにじませる。高市首相の24日の演説では「稼げる農林水産業を創り出す」などと述べるのみで、歴史的な農政の転換点とされた前政権のコメ増産方針は鳴りを潜めた。
中島さんは半世紀以上にわたりコメを生産。担い手の高齢化で引き受ける田んぼが増え、約12ヘクタールでコシヒカリなどを作る。コンバインを買い替える予定を立てていた矢先の国の「はしご外し」に「もう付き合っていられない。生産者の声をもっとよく聞いて方針を定めるべきだ」と訴えた。
福島市のコメ農家黒沢喜久夫さん(66)も以前は主食用と飼料用を生産していたが、昨年と今年は約10ヘクタール全てで主食用米の作付けに踏み切った。増産とならなければ再び飼料用米の生産に戻す可能性もあるが、準備に相応の時間を要する。
農林水産省企画課は来年収穫の主食用米の生産量目安について減産や増産、いずれかを目指すものではないと説明するとともに「需要に応じた生産が大原則」との説明を繰り返す。黒沢さんが「増産と減産、結局どちらなのか。不信感しかない」と受け止めるように生産現場に混乱が広がりつつある。■政府動向見守る
集荷・販売側関係者
一方、集荷・販売側の関係者は政府の動向を冷静に見守ろうとしている。JA会津よつば米穀課長の白川達則さん(43)は「新米の販売状況などを見ると、コメが余り気味と感じているので仕方ない」と語る。石破前政権は5キロ当たりの店頭価格3千円台を目指し、備蓄米放出など取り組みを重ねたが、成果は限定的との見方は強い。「政府は関与しない」と一転した高市政権の姿勢が市場に及ぼす影響は未知数で、二本松市の米穀店「樽井商店」やいわき市などでスーパーを展開するマルトは「まず情報を収集する」と慎重だ。
「適正価格」を政府が明言しなくなったことで、生産者と消費者双方が納得する形での価格設定は一層課題となるとみられる。農家の出身である福島市の無職大橋誠寿さん(69)は消費者として「生産者の苦労を考えると5キロ4千円を超えても決して高いとは感じない」と現在の価格に理解を示すが、「政治の中で戦略を持って価格状況を訴えていってほしい」と安定したコメの生産・消費が続くための取り組みを求めた。