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福島大食農学類の高梨琢磨准教授らの研究グループは、シイタケの栽培過程で微細な振動を与えて生育を早め、害虫による品質低下を防ぐ技術を開発し、特許を取得した。収穫までに通常2~3週かかる期間を4~5日程度短縮できる研究結果を基に、収量増につなげたい考え。振動で害虫の活動を抑制する。最適な周波数を生む装置を作り、実用化に向けた実証試験を進めている。福島県内の生産現場に広まれば東京電力福島第1原発事故で落ち込んだシイタケ生産の振興とブランド力強化、生産者の所得向上につながると期待される。
振動技術は原木栽培、菌床栽培の両方に活用できる。1秒当たり800回の振動を一定間隔で与えることで成長を早める。シイタケの品質低下を招くキノコバエの活動を弱める効果も得る。振動を起こす装置はティッシュ箱の半分ほどの大きさで、大がかりな設備は不要。菌床を並べた棚や原木の近くに振動が十分に伝わるように置くことで、菌床だと40個ほど、原木だと数十本に作用するという。2~3年で実証実験を終え、実用化に向けた段階に入る。
高梨准教授によると、振動によって菌糸が切れて「スイッチ」が入り、発生が活性化している可能性がある。キノコバエの活動低下は、振動を敵と勘違いしたストレスで摂食など生殖が抑制されることが要因と推測される。キノコの発生などが早まれば収穫の回数が増え、収入増が見込める。食害が減れば、商品価値を高められる。キノコ栽培は農薬を使えないため、害虫対策の省力化にも期待がかかる。
原木や菌床を木づちなどでたたくと、キノコの発生が促される―。元来、キノコの成長と振動との関係を巡る通説があった。高梨准教授は前職の森林総合研究所時代からキノコの成長と振動に関心を持っていた。研究グループは異なるパターンの振動をシイタケに与え、菌糸の成長具合を比較。成長促進と防除の効果を見いだし、最適の振動の具合を解明した。特殊な金属加工のノウハウがある「東北特殊鋼」(宮城県村田町)と共同開発した。
森林総合研究所などと連携して研究をさらに深める。県内の生産者と連携して技術を広める方針。シイタケの他、トマトでも実用化を見込んでいる。県内への流入が警戒されている特定外来生物・クビアカツヤカミキリやマツを枯らす原因となる「マツクイムシ」の防除にも応用できないか探っている。高梨准教授は「福島県はキノコ産業に力を入れている。地域に根差した研究とし、振興に貢献したい」としている。■「助かる農家多い」
品質向上に期待
県森林・林業・緑化協会きのこ振興センターの担当者は、生産者が害虫の防除に苦心している現状を指摘する。今回の技術開発について「安価に実装されれば、助かる農家は多いのではないか」とみる。
天栄村でシイタケの菌床栽培に取り組む大野一宏さん(70)は網や捕虫テープなどで、害虫対策を講じている。振動で寄り付く虫を抑えられれば、品質向上も期待される。「味や見た目が良くなれば、消費量も増えるはず。多くの人が参入し、好循環が生まれる」と話す。
県内のシイタケを巡っては、東日本大震災と原発事故発生後の規制を受け、原木栽培が減る一方、菌床栽培は大規模農家の増産などにより、2011(平成23)年に1533トンだったのが、2023(令和5)年には3402トンに増加した。ただ、2011年に541戸だった生産者数は、2023年に170戸まで減少している。

