福島のニュース
高齢化やスマートフォンの普及などに伴い、眼科の医療需要が高まる中、目の機能検査・訓練を担う専門職「視能訓練士」が福島県内で不足している。日本眼科医会は「眼科医1人に訓練士2~3人が必要」としているが、福島県は眼科医162人に対して訓練士は116人にとどまっている。不在や不足は診療時間が長引く一因とされ、患者からは「待ち時間がつらい」との声が上がる。訓練士は視覚障害者のリハビリも支えるだけに、県眼科医会や支援団体は人材確保に頭を悩ませている。◆看護業務に支障
10月中旬、県北地方のある眼科診療所は診察を待つ人で混み合っていた。昨年に緑内障の手術を受け、通院を続ける男性(80)は「検査から診察が終わるまで2時間以上かかる日もある。座りっ放しで腰が痛い」と不満を漏らした。
訓練士のいない同診療所では看護師が主に検査に当たるため、注射や患者のケアといった看護業務に専念できていない。看護師ができない高度な検査は眼科医が自ら行わざるを得ず、多忙さが原則予約制の診察の長時間化を招いている。男性院長はハローワークなどに求人を出しているものの、「雇いたくても集まらない。うちのような医院は少なくない」と嘆く。
一方、南中央眼科クリニック(福島市)は眼科医2人に対し、4人の訓練士が勤めている。斎藤公護院長は12年前に前身の開業医から診療所を承継し、看護師や訓練士らスタッフを継続雇用した。「訓練士がいることで、各職種の仕事を円滑に分担できている」と役割の大きさを強調する。◆機能回復の中核
厚生労働省が3年置きに実施している患者調査によると、2023(令和5)年に全国で「眼および付属器の疾患」入院・外来の推計患者数の合計は899万9千人と、2020年の前回調査時の797万4千人から約100万人増えた。高齢化の進行やスマートフォンの普及に伴い、眼科にかかる人が増えているとされている。
訓練士は視覚や視力の専門知識・技術を持つ国家資格で、全国で年間約800人が資格を取得している。病院の眼科や眼科診療所に勤務するほか、市町村による3歳児健診の検査などを担当する。低視覚(ロービジョン)などを抱える障害者に歩行訓練や矯正を施し、日常生活を送るための機能回復や維持を促している。
視覚障害者らの支援組織「県ロービジョンネットワーク」の活動も訓練士が中核として支えている。事務局を務める眼科医の橋本禎子さん(福島市・桜水さかい眼科)は「障害がある人の暮らしをより良い状態に導く上で訓練士の存在は大きい。職業として志す人が増えてほしい」と願う。◆理解増進の後押しを
県眼科医会は人材確保に向け、10月10日の「目の愛護デー」に合わせて新聞広告で訓練士の仕事をPRした。県内の眼科診療所に訓練士を紹介するポスターを近く掲示する。伊藤健会長(61)=郡山市、伊藤眼科=は県内の担い手不足の背景には養成機関が地元になく、希望者が首都圏などに流出している影響が大きいとみている。伊藤会長は「訓練士の認知度を上げるのが重要」とした上で「会単独でやれることは限られる。県外で学んだ人材を県内に呼び込むなど、行政の理解、支援が必要だ」と県などによる後押しを求めている。※視能訓練士
視覚に関する専門的な知識と技術を有する国家資格。眼科医の指示の下、視力や視野、色覚などの視機能を検査し、弱視や斜視、ロービジョン(低視覚)の患者に訓練や矯正を行う。養成校に指定された専門学校で1~3年間か、視能訓練関連の課程のある大学で4年間学んだ上で国家試験を受験、合格すれば資格を得られる。

