福島のニュース
「橋の名称について疑問があります。橋名板に書かれている○○橋の橋の読み方ですが、濁点が付きません。理由を知りたいです」。福島市の女性から、福島民報社「あなたとともに
福島特命取材班」に質問が寄せられた。多くの人や車の往来を見守る橋名板。福島市内の30カ所を確認すると、地域で「○○ばし」と呼ばれ親しまれている橋でも、橋名板はいずれも「○○はし」と記されていた。関係機関に理由を取材すると、治水に込められた日本人らしい気遣いがあった。
福島市中心部を流れる阿武隈川に架かる県道の松齢橋。通りかかった男女10人に、この橋の読み方を尋ねたところ、皆が「しょうれいばし」と答えた。しかし、橋の両側に設けられた橋名板を見てみると片側に漢字で「松齢橋」、もう一方には「しょうれいはし」と濁点を省いた平仮名表記が刻まれていた。
「なぜ“ばし”が“はし”に?」。子どものころから近所で暮らす70代男性が首をかしげた。
管理する県道路管理課に理由を聞いた。主幹の伊藤仁[よし]規[のり]さんは「『濁点は川の濁りを連想させる』という通説に基づく」と教えてくれた。濁った水は水害や氾濫を想起させる―。「関係者の治水への願いが込められているのだろう」と推し量った。
県が定める「共通仕様書(土木工事編)」には、橋名板の標準様式が定められている。2015(平成27)年の改訂版で「橋名は漢字および平仮名を用いて表示する」「平仮名の橋名には濁点を付けない」と明記された。
ただし、その前から県や市町村職員の間では「濁点を避ける」との習わしが広まっていたという。1925(大正14)年に建築された松齢橋を含め、県管理の橋は約4400本あり、県が把握する限り、全てで「はし」が使用されている。
架橋工事は高度経済成長に伴い活発化したが、最近は減っている。県管理の橋の新設件数は、年間5件未満にとどまる。あるベテラン県職員は「若手が仕様書に込められた先人の思いを意識する機会が減っている。伝え継いでいきたい」と語った。
国道の橋はどうなのか。国土交通省福島河川国道事務所によると、濁点に関する規定はないという。福島市北部にある国道4号の松川橋は「まつかわばし」と記している。■橋名板の配置や表記に日本橋「起点」の考え方
橋名板の配置を巡っては、東京・日本橋を「起点」とする考え方が大きく影響しているという。福島県主要道の場合は日本橋により近い方が「起点側」となり、反対は「終点側」としている。
その上で、起点側は「左に漢字の橋名」「右は河川名」、終点側は「左に竣[しゅん]工[こう]年月」「右に平仮名の橋名」を刻むのが基本となっている。

