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巨額の不正融資問題を巡り、いわき信用組合(本部・福島県いわき市)は31日、これまで使途不明金とされていた約10億円の大半が反社会的勢力に支払われていたと発表した。特別調査委員会は調査報告書で、使途不明金約9億5千万円が反社会的勢力に支払われていた疑いがあると認定した。金融庁は銀行法に基づく業務の一部停止と改善命令を出した。新規顧客への融資業務を11月17日から1カ月間停止するよう求めた上で、事実と異なる役職員の答弁によって全容解明に重大な支障が生じている点を問題視し、刑事告発を検討していると明らかにした。
特別調査委によると、平成初頭に右翼団体の標的とされていた同信組が街宣活動を中止させるための解決料名目で、反社会的勢力に便宜を図ったのが発端となったとみられる。両者の関係性や過去の不正行為を脅される形で資金提供や融資に繰り返し応じていたという。
金融庁によると、信組は遅くとも1992(平成4)年ごろから、現金を提供していた。反社会的勢力が保有する法人や、反社会的勢力から紹介を受けた相手先に融資する事実も確認している。大口先の支援で問題が表面化した「無断借名融資」の手法で捻出した他、融資金を水増しして融資を実行し、水増し分を元役員が受け取る「水増し融資」を行っていたという。
金融庁は旧経営陣が反社会的勢力との関係性が明るみに出るのを恐れ、隠蔽[いんぺい]を図った悪質性を指摘。昨年11月に財務省東北財務局から報告徴求命令を受けたにもかかわらず、事実と異なる答弁をしていたとした。無断借名融資リストを保管したパソコンについては不正発覚後に管理担当者が「ハンマーで壊した」という説明は虚偽で、「役員に返し、廃棄された」という説明に転じたという。
金融庁の命令では、新規顧客への融資業務停止の他、全ての役職員が一定期間、通常業務から離れて研修を受けることも命じた。6月末に信組が金融庁に提出した業務改善計画の見直しも盛り込んだ。
いわき信組の金成茂理事長は31日、いわき市内で記者会見し、「不祥事件を二度と起こすことがないよう役職員一丸となって取り組む」と述べた。
信組の不正融資を巡っては、旧経営陣が主導し、2004年から約20年間にわたり不正融資があったことが発覚。東北財務局が5月に業務改善命令を出していた。特別調査委は2004年3月期から2025(令和7)年3月期までの不正融資の実行額について、合計額は279億8400万円で、そのうち254億3300万円が不正融資の返済や利息などの支払いとして組合に還流し、残りの25億5100万円が反社会的勢力や大口融資先などの外部に流出したと考えられる―とした。
信組には東日本大震災後の2012年、金融機能強化法に基づき、200億円の公的資金が注入されている。財務省東北財務局は「監督官庁として長きにわたり重大な問題を把握できなかったことを重く受け止める」とした。
金融庁が一部業務停止命令を出したケースは、みずほ銀行による反社会的勢力との取引や、スルガ銀行によるシェアハウスの物件所有者などへの不正融資がある。
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信組は31日に総代会を開き、承認が持ち越されていた2024年度の決算を承認した。【いわき信用組合の不正行為を巡る経過】1990年代
反社会的勢力に資金提供開始2004年3月
ペーパーカンパニーを使って大口融資先に迂回融資2007年3月
大口融資先への無断借名融資の開始2011年3月
東日本大震災
大口融資先への資金提供終了
隠蔽のための無断借名融資開始2012年1月
公的資金200億円注入2012年3月
無断借名融資の償却開始2024年11月
迂回融資の事案公表2025年
5月下旬
預金者名義の口座偽造問題発覚
組合員の一人が江尻次郎元会長を告発
5月29日
東北財務局から業務改善命令
5月30日
第三者委員会が調査報告書公表
6月13日
総代会(新体制決定)
組合員の一人が江尻元会長の告発を取り下げ
6月30日
東北財務局へ業務改善計画提出
全容解明へ向けた特別調査委員会の設置
10月31日
特別調査委員会の報告書公表【特別調査委員会が新たに公表した主な不正事案】・反社会的勢力と反社会的勢力とみなされる者に資金提供した。・役員の交友者の関連会社などに融資する際、融資金額を水増しし、役員が水増し分の一部や全額を現金で受け取っていた。役員は受け取った現金を無断借名融資の利払いや返済、反社会勢力への提供資金などに充てた。・情報誌関係者に不正を暴く旨を脅され、約1億5千万円を支払った。

