福島のニュース
「あったまんま放送(街宣活動)でされるよ」「終わりだよ。辞めるようになるよ」。2017(平成29)年以降、いわき信用組合(本部・福島県いわき市)の不正融資を知る反社会的勢力の人物(以下A氏)が、役員にかけた電話の生々しいやりとり。その一部始終が録音に残っていた。当時理事長だった江尻次郎氏が電話に応答しなかったことに業を煮やしたA氏が別の幹部を脅す構図は、心臓をわしづかみにされた同信組のもろさそのものだった。
同信組の不祥事の話題が新聞紙面を埋めた1日、福島民報社の取材に応じた元理事の男性は、「当時の理事会に出席していたが(反社との付き合いは)全く分からなかった」と、ごく一部で共有されてきた秘密に驚きを隠さなかった。
A氏への現金提供が始まったのは1994年。暴力団関係者といわき信組の癒着を糾弾する内容の街宣活動が繰り返されたことを機に、A氏が江尻氏の数代前の当時の理事長に「仲介役を務める」と申し出た。組合は納税充当金として積み立てられていた資金を取り崩し3億円超を支払ったとされる。
「脅しに屈して資金提供を行った場合、そのことも弱みとなり、その後も反社による不当要求の餌食になることは容易に想像できる」。特別調査委の指摘そのままに、現金供与は続いた。積立資金の取り崩しでは捻出が困難になり、手を染めることになったのが不正融資の数々だ。「水増し融資」を皮切りに、顧客の名義を勝手に使用する「無断借名融資」の手法を、反社への資金提供にも用いるようになった。
不正融資は、次の不正融資を生む。A氏への資金提供は少なくとも2016年まで続いた。特別調査委委員長の貞弘賢太郎弁護士は、異常と正常の区別が付かなくなったとも言える当時の旧経営陣の心境を推察した上で「言わずもがなだが、反社は今後一切排除しなさい。手を切りなさい。今はそういう時代だと分かってもらわないといけない」と言い聞かせるように語った。
信頼回復につながる道はあるのか―。貞弘氏の言葉を傍らで聞いた金成茂理事長のくちびるは、固く結ばれていた。

