福島のニュース
今夏の猛暑は福島県を代表する園芸作物に深い爪痕を残した。全国2位のモモは、主要産地を抱えるJAふくしま未来管内で販売数量と販売額が前年同期から2割減少。高温による主力品種「あかつき」の着色不良などが響いた。全国有数の出荷量を誇るリンドウや生産の盛んなトマトも2、3割減った。有識者は幅広い野菜や花卉[かき]に影響が及んでいると指摘する。県は異例の被害を受け、急激な気候変動に伴う被害抑止を重点に据え、暑さによる影響・予測の調査や対策技術の開発を急ぐ。
県北地方など12市町村を管轄するJAふくしま未来(本店・福島市)の今年度のモモの販売量は10月25日現在、9321トンで2024(令和6)年度1年間の1万1946トンの78%にとどまった。販売額も約62億3千万円と、前年度同期の76億9千万円の81%に減少した。
同JAによると、主力品種「あかつき」で色づきが進まず、落果や軟果が多発した。福島市飯坂町の安斎秀俊さん(45)の果樹園は猛暑で葉が枯れかけるなど被害を受け、出荷量は昨年度に比べて2、3割まで落ち込んだ。安斎さんは「気象条件は20年前とは全く違ってきている。気候変動への対策は急務だ」と焦りを隠さない。
同JA管内のモモの販売量・販売額は直近5年間で見ても、「モモせん孔細菌病」が流行した2020年度の8245トン(46億9千万円)、凍霜害が広がった2021年度の9477トン(56億6千万円)に匹敵する低い水準となった。
猛暑の被害はモモだけにとどまらない。県によると、出荷量全国4位のリンドウは高温により、色が白くなる着色不良が生じた。9月末時点での出荷量は85万9千本で前年度の同時期から3割超の減。トマトも花が落ちるなどし、9月末時点での出荷量は5647トンで約2割減った。県園芸課の担当者は「園芸品目に限れば、高温に伴う被害の大きさは過去に例を見ない深刻さだ」と危機感を募らせる。■県、高温影響予測モデル構築
県は加速する気温上昇と作物への影響の広がりを受け、従来の取り組みでは対応しきれないと判断。基幹産業を守るため、総合的な対策を講じることとした。
当面はモモ、リンドウなど高温被害が既に著しい品目を対象に品質・収量の影響予測モデルを構築する。生産者から集めた品質・収量の変化などの情報を過去数年間の県内の気象データと照合し、将来的に予想される変化を分析する。2027年度末までに分析結果と対策をまとめ、出先機関や市町村を通じて生産現場に広く周知する。
高温下で頻発、拡大する病害虫対策も強める。県内では2024年度に新たな病害虫や特定外来生物が6件確認され、今年度も斑点米カメムシ類や果樹カメムシ類の注意報を出した。生産者が早期に備えられるよう、発生量予測などを示したリスクマップを作る。
農研機構西日本農業研究センターが開発した「片屋根ハウス」を県農業総合センター(郡山市)に導入し、高温対策としての効果を検証する。上部が一部開閉し、熱を逃がす構造でトマトなどを育て、県内の気候や土壌への適応を見極めた上で普及を検討する。
県は県農業総合センターを拠点に、各品目・品種の高温対策を研究してきた。ただ、生産者には対策の遅れを指摘する声もある。県内の農業関係団体で役員を務め、現在は農業を営む県中地方の70代男性は県の対応を山形、宮城両県などに比べて遅れていると指摘。「気候変動は急速に進んでいる。対策は待ったなしだ」と訴える。■地域、県ごとの対策を
福島大食農学類教授
作物学や栽培学が専門の福島大食農学類の新田洋司教授(61)はトマトやキュウリ、リンゴ、ナシなど県内で生産が盛んな園芸作物に高温の影響が表れているとした上で、天候や栽培環境は地域によって異なるため、「地域ごと、県ごとの対策が必要となる」と指摘する。「県の研究開発部門が加速度的に取り組んでほしい」と話している。

