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生活圏への相次ぐ熊の出没を受け、福島県須賀川市と鏡石町、天栄村は捕獲の担い手となる鳥獣被害対策実施隊員の「広域運用」を開始する。3市町村の隊員情報を平時から共有。いずれかで住宅街や公共施設近くへの出没が起きた際、地元の首長の要請を受けて残る2自治体の隊員が応援に駆け付ける。猟友会員の減少・高齢化と人身被害の急増を打開する試みで、天栄村によると、県内の市町村が熊対策で協力態勢を組むのは珍しい。16日に相互応援協定を結ぶ。
協定は隊員16人の平均年齢が75歳を超え、高齢化が特に著しい天栄村が提案した。出没情報に対し、常時出動できる隊員は数人しかおらず、担い手の確保が急務となっている。須賀川市も隊員79人の平均年齢は67歳、鏡石町も隊員5人の平均年齢は70歳だった。
3市町村のうち、熊の目撃は天栄村と須賀川市で増加傾向にある。天栄村は2021(令和3)~2024年度は年間10件前後だったのが、今年度は7日時点で16件に達した。須賀川市も2024年度の目撃が14件に上っている。
鳥獣被害対策実施隊は鳥獣被害防止特措法に基づく仕組み。3年以上の狩猟経験を持つ地元猟友会員らを市町村長が委嘱。熊やイノシシなど有害鳥獣の捕獲や捜索、警戒などに当たる。
他市町村で活動する際は活動先の首長の許可が必要だが、協定後は応援要請に応じた出動となるため、手続きが円滑になる。応援隊員は現場周辺の地理に不案内な面があるため、村は担当者を臨場させ、地図と口頭で地勢を説明するなどの対応を検討している。
天栄村の実施隊で隊長を務める揚妻昭佳さん(80)は「協定が実現するのはうれしい」と安堵[あんど]する。約10年前に広戸小の通学路で熊と対峙[たいじ]。応援を求めたものの、集まれたのは7人だった。「熊に立ち向かうには最低10人は要る。駆除できたが、村内の猟師だけでは限界を感じた」と広域での対応を呼びかけてきた。今年5月には村内の「道の駅季の里天栄」付近に熊の親子が出没したのを受け、村に要望書を提出した。
「市民と猟師の命を守るためには市町村の垣根を越えた連携が必要だ」と協定による対応力の向上を期待している。■県猟友会、会員減少
会長「悩む自治体の参考に」
県猟友会によると、2021(令和3)年以降の会員数は【グラフ】の通り。2025年は2589人と4年前に比べて200人以上減り、平均年齢は65歳と高齢化している。県によると、市町村が組織する鳥獣被害対策実施隊は主に猟友会員が担っており、会員減は市街地などに熊が出没した際の対応力の低下につながりかねない。
芥川克己会長(76)=会津坂下町=は「市町村間で応援し合う仕組みは担い手不足に悩む自治体の参考になる」と3市町村の動きを好意的に受け止める。芥川会長によると、湯川村は第1種銃猟免許の所有者がおらず、近隣の会津坂下町と実施隊の派遣に関する調整を進めているという。
県環境保全農業課は「近隣市町村が連携し、効率的に対応する試みは有害鳥獣対策の強化につながる」と関心を寄せている。

