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反社会的勢力に多額の資金を提供し金融庁から業務の一部停止と改善命令を受けたいわき信用組合(本部・福島県いわき市)は14日、現経営陣の片野憲一常勤理事(50)が反社所有の企業への融資に関与していたと、金融庁に提出した業務改善計画書で明らかにした。片野氏は14日付で辞任した。金成茂理事長(58)は市内で記者会見し、「反社勢力の遮断に向けた取り組みを厳格に行っていかなくてはならない」と述べた。
いわき信組によると、片野氏は職員時代の2024(令和6)年春ごろ、当時の役員から指示を受け、反社が所有する企業に対し融資を実行していたという。13日に本人が辞任を申し出た。同信組は融資金額を明らかにしていない。
持舘久徳常勤理事(53)についても、大口融資先への不適切な融資に関わっていたとして役員報酬月額30%(3カ月)を減俸する懲戒処分とした。今後も内部調査を継続し、新たな不祥事などが確認された場合、速やかに厳正な対処を行うとしている。
この処分とは別に、今回の金融庁からの行政処分を受け、金成理事長は役員報酬を月額50%(3カ月)減俸、他の常勤役員も月額10%(同)減俸する。■外部通報窓口を設置
業務改善計画では「反社会的勢力遮断への取り組みプラン」を策定した。チェック体制を強化し、反社との取引を防止する他、反社に関連する預金や融資取引の解消を進める。融資については少なくとも計9件約28億円の取引があるとしており、特定回収困難債権買取制度を活用して解消を図るという。
反社遮断に向け月内に法律事務所と顧問契約を結んで外部通報窓口を設け、役職員への対策の指導を行う警察OBを採用する方針も示した。これまでの不祥事に関与した反社関係者に対する民事提訴、刑事告訴も行っていく方針。不正融資の再発防止に向けた「融資の際の本人確認書類の取り扱いの厳格化」なども盛り込んだ。
東日本大震災後の公的資金注入を受けて策定した特定震災特例経営強化計画についても業務改善計画の内容を踏まえて見直し、金融庁に提出した。【いわき信組の業務改善計画の主なポイント】・反社に対するチェック体制の強化・反社関連の融資取引などの解消・法律事務所と顧問契約を結び、外部通報窓口を設置・警察OBの採用・不祥事に関与した反社関係者に対する民事訴訟、刑事告訴・役員報酬の減俸3カ月・内部調査の継続■再生への船出波高く
「隠蔽体質」根深さ露呈
理事長「事実重く受け止める」
現役員が反社会的勢力への融資に関わっていた―。14日の会見で、衝撃的な事実を公表したいわき信用組合(本部・いわき市)。金融庁に提出した業務改善計画書を示し、再出発を期する場となるはずが、根深い隠[いん]蔽[ぺい]体質を印象付ける結果となった。総代や利用者などからは「金融機関とは到底思えない」と厳しい声が飛び交い、荒波にもまれながらの「新たな船出」となった。
金成茂理事長(58)は会見の冒頭、深々と頭を下げて謝罪した。業務改善計画書の内容説明の序盤、現役員が反社と認定された企業への融資に関与していた新たな事実が明かされた。報道陣からの質問を浴びた金成氏は「現役員が不適切な融資に関わっていた事実を重く受け止める」と表情をこわばらせた。
常勤理事を辞任した片野憲一氏(50)が職員時代に関わった融資は、旧経営陣の判断で反社の関係先とは位置付けられていなかったという。だが、先月31日に公表された特別調査委員会の報告書で、融資先は反社と認定された。片野氏は今回提出された業務改善計画の策定で中心的な役割を担っていたが、「けじめをつける」として、13日に自ら辞任を申し出たという。金成氏は「反社との関係遮断を公言する以上、関わった役員に辞任してもらうしかない。世間に対して示しがつかなくなる」と受理した。
新規顧客への融資業務が停止される17日からの1カ月間で、全役職員が法令順守に関する研修を受ける。内部調査も続け、不正の温床となった隠蔽体質や企業倫理意識の低さが根付いた理由を究明し、禍根を絶つ考えだ。
金成氏は「業務改善計画で示した内容をきっちりと実行に移し、その姿をお客さまに見てもらうことで信頼回復につなげていく」と強調した。■現経営陣まで不正とは利用者ら
「現経営陣からも不正の事実が出てくるとは」「信頼回復は並大抵のことではない」。利用者や市民などからは怒りやいわき信組の将来を不安視する声が上がった。
会社を経営する総代の70代男性は「どうして今まで黙っていたのか」とあきれた様子。市内で会社を経営する60代男性は「他の現経営陣も本当に関わっていないのか疑問だ」と不信感をにじませた。
同信組を40年以上、利用している市内の70代無職女性は「公表するたびに新たな不祥事が出てくる。地元に根差した金融機関とは到底思えない」と怒りをあらわにした。総代の50代男性は「しばらくは厳しい目で見られるし、信頼回復は並大抵のことではない。社内監視の目を厳しくしてほしい」と求めた。■厳しく検証、確認を財務事務所がコメント
業務改善計画提出を受け、財務省東北財務局福島財務事務所の蹄[ひづめ]隆夫理財課長は「健全な金融機関として再出発を果たすための第一歩。一日も早く地域を支える役割に専念できるよう、金融庁と緊密に連携して業務改善を厳しく検証、確認していきたい」とした。12月末時点の計画進[しん]捗[ちょく]状況を来年1月末までに報告するよう求めており、その後は3カ月ごとの報告となる。
全国信用協同組合連合会(全信組連)の担当者は「不正を断ち切り二度と過ちを起こさないための方策が適切に盛り込まれていると認識している。金融仲介機能を発揮できるよう、指導助言をはじめあらゆるサポートを続けていく」とコメントした。

