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福島県内の畜産・酪農界で若手の削蹄[さくてい]師が活躍している。しかも腕前は国内トップ級だ。牛の健康を守るため爪を整える。大切な仕事だが肉体的にきつく、全国では担い手不足が課題だ。だが、県内では若手の存在が新たな人材を呼び込んでいる。情熱あふれる若き職人が東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興途上にある古里の畜産・酪農を支えている。
削蹄技術を競う全国大会が11日、水戸市で開かれ、二本松市の高野智徳さん(42)が県勢3人目の総合優勝を果たした。高野さんは依頼に応じ県内の農家を回る。牛の足の伸びた爪を専用の刃物で切ったり削ったりする。削蹄が悪いと足に負荷がかかり体調に悪影響が出る。深爪に当たる「過削」には特に注意しなければならない。不快な思いをした牛が暴れたら危険だ。いかに牛を安心させられるか常に気を配る。
「牛は話せない。どうしたら立ちやすくなるか、どんな形がいいのか勉強を続けなければ」。高野さんは自身に言い聞かせる。牧場を管理する菅野寿市さん(59)は「削蹄師がいて自分たちの職業が成り立つ」と高野さんを信頼する。
高野さんには尊敬するベテラン削蹄師がいる。そのうち一人が二本松市の武藤靖雄さん(70)だ。武藤さんの次男智哉さん(35)は、11日の大会で部門別種目1位に輝いた。長男稔貴さん(36)も2016(平成28)年に全国一となっている。靖雄さんやその子息に教わった若手が業界を盛り上げる。稔貴さんに影響を受けて削蹄師になった福島市の舘内将希さん(27)は県内外で活躍する。舘内さんの弟志弥さん(17)=福島明成高3年=も「兄と一緒に仕事がしたい」と夢を描く。
日本装削蹄師協会所属の削蹄師は2015年に810人いたが、2024(令和6)年には725人まで減った。ただ、県装削蹄師協会には10月末現在で53人が登録しており、10年前の56人と比べてもほぼ横ばい。20代が4人、30代も7人いるなど幅広い世代が活躍している。
高野さんは「この仕事が好きだ。酪農家や牛たちのために努力していきたい」と話している。

