政財界に広がる余波 福島市長に馬場氏初当選 地元二分生じた不和 今後の選挙に影響か

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木幡市政2期8年の評価が争点となった16日投開票の福島市長選で、元立憲民主党衆院議員の新人馬場雄基(33)は、組織力で勝る現職木幡浩(65)を約1万5千票差で破った。地元の政界や経済界を二分した戦いの余波が広がる。生じた不和は今後の知事選や県議選、国政選挙にどう影響するのか。市政交代の実相を探った。■吸い上げた不満
「地上戦と空中戦の組み合わせがうまくいった」。馬場の選対本部幹事長を務めた伴場賢一は勝因を分析する。地上の組織戦では地域に漂う閉塞[へいそく]感の打破を訴えて現職批判票の受け皿となり、交流サイト(SNS)を駆使した「空中戦」で若年層や無党派層などを取り込んだ。
有権者の既存政党離れを意識し、立民を離れて無所属を前面に打ち出した。投票率の高い中高齢者層に食い込もうと、地域の顔役で脇を固めた。選対本部長の吾妻雄二は旧JA新ふくしま組合長を務め、現在は市自治振興協議会連合会長。連合後援会長は校長経験者の星本文。顧問の自民県議西山尚利は、告示前に木幡の対抗馬として擁立が模索されたが、馬場の援軍に回った。
経済界を中心にくすぶる不満を吸い上げた。木幡市政2期目の2021(令和3)年以降、JR福島駅東口の顔だった旧中合福島店の解体、西口のイトーヨーカドー福島店閉店と続き、中心市街地の空洞化が進んだ。東口再開発ビル計画は資材費高騰などを受け、規模縮小やホテル撤退など計画見直しが相次いだ。老朽化が進む卸売市場の建て替えや道の駅整備などを巡っても木幡の方針と経済界などの一部はそりが合わなかった。ある団体のトップは「市長に何を訴えても聞く耳を持たなかった」と明かす。
空中戦では、若年層の利用率が高い動画サイトなどの投稿専門チームを編成した。告示前日、SNSのみで告知して福島駅前で演説会を開いた。「SNSの発信力を試す実験」(陣営幹部)だったが、動員なしで約100人が集まった。告示後は遊説や演説の日程を小まめに投稿。動画の閲覧数は短時間で急激に伸びた。国会議員時代に交流を深めた全国の衆参両院議員、首長らも相次いで投稿し馬場の追い風となった。■造反の代償
木幡陣営は盤石とみられた。4年前の前回市長選に続き自民、立民、国民民主、公明、社民の各政党、連合福島、市職労から推薦を得て、250を超える企業や団体が支えた。
しかし、自民県議の西山が表立って馬場を支援し、立民の一部の市議や県議らも加わると、与野党相乗りの木幡陣営の足元が揺らいだ。推薦は党公認に比べれば選挙協力の度合いが弱い。相乗りの他党に、自党の支援者名簿などの手の内を明かすわけにもいかない。市議34人のうち超党派の31人で構成する「市議の会」も支えたが、遊説部隊に加勢したのは一部にとどまった。「推薦なんて紙切れ一枚だ。(木幡陣営は)張りぼてだった」。馬場、木幡双方の事務所に出入りした関係者は振り返る。
一方で、党方針に背いて馬場を支えた代償は「しこり」となった。立民最大の支持基盤である連合福島は、一部議員の造反に業を煮やし、立民県連との関係を当面凍結すると表明。木幡陣営が終盤戦での引き締めを狙ったとみる向きがあったが、立民県議の一人は「傷口に塩を塗っただけで、むしろ逆効果だった」と冷めた見方で振り返る。ただ、立民、国民、社民の各党県連、連合福島、県議会会派「県民連合」で構成する5者協議会は国政選挙や首長選などで強固な組織戦を誇ってきており、今後の連携には不透明感が漂う。
自民も人ごとではない。今後の知事選や県議選を見据え、組織内だけでなく「関係団体との関係修復を急がなければならない」(県連関係者)という。■苦い過去
組合員1690人を抱える市職員労働組合は木幡を支援した。1985(昭和60)年から市長を4期16年務めた故吉田修一の擁立に関わったのを機に、政治力を高めたとされる。ただ、市職労が推した現職が落選すると、新顔の市長に冷遇された苦い過去がある。委員長の黒津正孝は「戸惑いはあるが、結果を真摯[しんし]に受け止めたい」と話す。
こうした木幡支持層とどう向き合い、距離を詰めるのか。「立場や意見の異なる方たちの思いをくみ取る姿勢を忘れてはいけない」。初当選から一夜明けた17日、馬場は自らを戒めるように言葉に力を込めた。