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体を温め、心にぬくもりを届ける銭湯文化を守るため、福島県内一律となっている普通公衆浴場(銭湯)の入浴料金が値上がりする見通しとなった。県の諮問を受けた調査会が19日、引き上げの方針を決めた。12月に県に答申する。1989(平成元)年に県内に70店以上あったが、生活様式の変化により営業しているのは6店に激減。物価高が続く中、心身を休めるため一定のニーズがある銭湯の経営を改善させる狙いがある。各店も状況好転に向け努力を続けており「銭湯文化を未来へつなぐ」と誓う。
「厳しい経営環境を上向かせるには、値上げは仕方ない」。県公衆浴場業生活衛生同業組合の理事長を務めている川俣町の銭湯「藤の湯」の藤原栄二さん(78)は理解を求める。
入浴料金は物価統制令により、都道府県ごとに一律の料金になっている。県内では2018年から大人(12歳以上)450円、中人(12歳未満)150円、小人(6歳未満)90円。諸物価の高騰分を料金に転嫁できず、県公衆浴場業生活衛生同業組合が昨年末、県に値上げ検討を要望していた。調査会は厳しい経営状況を踏まえ、値上げの答申を決めた。引き上げ幅は12月の答申で公表される。
藤の湯はボイラーでお湯を沸かすため、建設廃材を活用するなどコスト削減に取り組んでいる。しかし交通手段がない高齢者の足が遠のき、利用者は減り続けている。東京電力福島第1原発事故発生後には、周辺で働く除染作業員のリフレッシュの場となり、復興を支えるのに一役買った。長年通っている常連の斎藤一さん(82)=川俣町在住=は「快適な湯を提供してくれる。地域になくてはならない存在だ」と値上げを肯定的に捉えた。
会津若松市では県内最多の3店が営業しており、苦境は同じ。このうち1店では利用客が1950年代の全盛期から半減し、現在は1日当たり25人ほど。寒さが厳しい冬は特に燃料費がかさみ、12月から定休日を週2日間から3日間に増やす苦渋の決断をした。男性店主(89)は値上げは客足の減少につながりかねないと不安視するが、現在の窮状を放置できない。「お客さんを大事にしながら営業したい」と話す。福島市で唯一の銭湯「つるの湯」3代目の片桐詔次さん(80)は、値上げ分のサービス向上を検討したいとしている。
各銭湯に助言している県生活衛生営業指導センターの大島正敏事務局長兼経営指導員は「銭湯は日本の文化だ。人と人のつながりを保つ重要な施設でもある」と銭湯の存続を訴えた。

