福島のニュース
「村の経済が回復したとは実感できない」。福島県の川内村商工会長の井出茂(70)は東日本大震災、東京電力福島第1原発事故で一変した古里の現状をそう言い切る。人口が減り、目に見えて取引や消費の動きが震災前より減っているからだ。
産業復興の指標となる村内の域内総生産額(GDP)は2022(令和4)年度、102億円に上った。2010年度の1・6倍に迫り数値上は商工業が再生を遂げたように映る。ただ、現実は違う。建築業の生産額は5倍まで膨らんだ一方、運輸や不動産は伸び悩むなど業種ごとのばらつきが出ている。相双地域全域で企業誘致が活発化する中、村内の田ノ入工業団地では、食品関連企業の農(みのり)だけでなくスポーツウエア製造販売の工場も撤退するなどほころびが生じている。
村は交通網の脆弱[ぜいじゃく]さなどから他地域と比べて産業復興のハンディを抱える。中山間地域と被災地という二重の課題への配慮が必要と考える井出は「復興の現状を鑑みて対応してほしい」と格差を生じさせない施策が肝要と指摘する。
被災地では、発災から14年半が経過し、復興特需はしぼみ続けている。川内村の関係者が地域格差拡大への不安を募らせる理由の一つが国の自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金(自立補助金)の補助率の差だ。製造・サービス業を対象としたメニューの場合、進出する事業者に業種や規模に応じて整備費の最大4分の3を補助する手厚さを誇る。一方で避難指示解除からの年数に応じて補助率が段階的に下がる。
全域で避難指示が解除され、9年となる川内村は補助金の補助率が最大で2分の1となる。採択件数は2023年度までの交付決定ベースで4件と、12市町村の中でも3番目に少ない。「企業進出の動きが途絶えてしまわないか」。被災地の各地で産業団地の新設が相次ぐ中、川内村だけでなく避難指示解除から一定期間が経過した町村の関係者は焦りを隠せない。
経済産業省は避難指示解除の時期により、国の支援の程度に自治体ごとの差が生じる点について、避難指示解除が間もない地域で帰還支援を集中的に進める必要性を強調する。川内村長の遠藤雄幸は一定の理解を示すが、「復興を進める上で次々と新たな課題が生じている」と帰還などが早期に実現した地域でも産業再生などが一筋縄ではいかない現状を明かす。
特に深刻なのが人口減少で、村内の居住者は約2200人と、発災前に比べ2割超の700人近く減った。人の定着に働く場は不可欠と考えており、「企業誘致の補助金の利点だけでなく、働く人の受け入れなどをセットで考える必要がある」と強調。「中山間地に暮らすことに価値を見いだす人の支援」などで選ばれる地域に向けた差別化を図る考えだ。第3期復興・創生期間が始まるに当たり、「事業を精査する。その上で必要な支援の継続は国に求めたい」と「公平」な施策を訴える。
被災地の企業への呼び込みでは、想定通りいかず、苦慮する事例も多い。(文中敬称略)

