福島のニュース
「遊休農地の活用を進める」「浜通りの農産物を海外に売り込む」。福島県川内村への進出が白紙となった千葉県の食品関連企業「農(みのり)」の関係者は繰り返し壮大な“青写真”を地元に説明していた。だが結局、農業振興の取り組みは説明もなく、工場建設の中断とともに立ち消えとなった。被災地の産業再生を後押しする国の自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金(自立補助金)。約1400億円が投じられる一方、農のように道半ばに終わった採択事業は少なくない。
楢葉町のJR常磐線竜田駅東側では2018(平成30)年ごろ、客室約200室と温泉などを備えた4階建てのホテルの建設が予定されていた。観光交流促進の拠点として期待されたが、資金繰り悪化による事業者の破産開始決定で頓挫。駅前には今も空き地が広がる。浪江町でも電気機器製造業の工場進出が見送られ、期待されていた雇用が白紙となった。「企業の規模に見合わない計画を打ち出す事業者は後を絶たない」。自治体の関係者は口をそろえる。
自立補助金は2016年度の創設以来、232件(9月末時点)の事業が採択され、リチウムイオン電池原料や医薬品の製造などさまざまな業種の誘致に結び付いた。一方、進出前の辞退や事業廃止に至った例は2割超の55件にも上る。これが自立補助金のもう一つの現実だ。補助金の交付決定前に辞退したのは37件、交付決定後に事業を取りやめたのは16件。稼働後に廃業し、引き継ぎ先が見つからなかったケースも2件ある。これらは「被災地の雇用や経済への恩恵が失われた例」とみなされる。
経済産業省の担当者は要因について、「採択企業の資金繰りの悪化」と説明する。社会情勢の変化や物価高騰による建設費の増加など、背景は多様でひとくくりにはできない旨を強調する。復興庁による事業検証では近年、外部有識者として提言を行っている公認会計士の坂本邦夫らが採択案件が事業化に至らないケースの多さを「歪み」と表現するなど問題視した。
同じく産業復興を目的とし、県全域を対象に600件を採択した「ふくしま産業復興企業立地補助金」では辞退は1割に満たない。他の補助金と比較しても自立補助金の「離脱率」の高さが際立つとの見方がある。
なぜ、被災地進出を断念する企業が相次ぐのか。帝国データバンク福島支店長の鎌田守康は、補助金に依存した事業構造の危うさを指摘する。「浜通りなどでは、資金規模の小さいスタートアップの進出が他地域より多い。潤沢な補助金を頼りに事業を進めた結果、想定外の負担が生じた際に対応できなくなるケースもある」。手厚い補助金が「支え」であると同時に「重荷」にもなり得る課題を強調している。
撤退などが相次ぐもう一つの理由は被災地での雇用の難しさだ。自立補助金の採択条件と人手不足のはざまで苦悩する事業者。その悲痛な声は日増しに強まっている。(文中敬称略)

