【復興検証 震災・原発事故15年】第1部 産業復興❺担い手問題 雇用要件高い壁に 被災地の現状に合わず

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【復興検証 震災・原発事故15年】第1部 産業復興❺担い手問題 雇用要件高い壁に 被災地の現状に合わず

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「危機感からできることは全てやった」。福島県南相馬市原町区に進出したミズホ金属(本社・東京都葛飾区)の工場で、真新しい機械からゴム製品を作る音が響く。操業から1年半が経過し、社長の岡田真一(59)は働き手を確保しようと奔走した日々を思い返す。
東京電力福島第1原発事故の避難指示が解除された地域への進出に当たり、生活環境や交通の便、住宅事情まで自ら確認した。人手が確保できるかどうか、それが「適地」を決める最重要の基準だったからだ。若い世代が働きやすい職場環境づくりへの投資も惜しまなかった。特に力を入れたのが待遇面の他社との差別化で、初任給を東京の企業と同水準に設定した。11人の新規採用ついて「そこまでしなければ集めることはかなわなかった」と言い切る。
限られた労働力を巡り被災地で企業間の競争が過熱している。近年、拍車をかけているとされるのが国の自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金(自立補助金)の雇用に関する「縛り」で、「制度が現状に合わなくなってきている」との声が上がる。
自立補助金は避難指示区域が設定された12市町村を中心に住民の働く場をつくり、帰還や移住を促すために多額の予算が投じられている。確実な達成に向け、手厚い補助と引き換えに厳格な採択要件を設けている。そのうちの一つが地元住民の採用だ。工場整備などに投じた額ごとに設定しており、少なくとも2人、多い事業者で100人以上の新規雇用が課せられる。
仮に満たせなければ補助金返還を求められるため、条件の達成に「死に物狂い」(双葉郡の採択企業)だ。雇用見込みが採択ベースで1300人超まで増えた中、限られた人手が他企業に流れないよう待遇や支援面で差別化を図る動きも増えており、大きな負担につながっている。
制度への批判は企業の多い南相馬市だけでなく、被災地全域にも広がる。富岡町産業振興課長の原田徳仁は「人口減と省力化の社会の流れと逆行している」と改善を提案したが、経済産業省の被災地の担当者は口をつぐんだ。雇用の恩恵と制度の利用しやすさのバランスを国も計りかねており、出口は見えない。
ミズホ金属では、従業員数を現在の11人の倍の20人に増やす計画で、品質管理を強化するための体制づくりが狙いだ。
ただ、被災地で企業立地の動きが活発化する中、不安は尽きない。岡田はこれ以上確保に必要な人件費が増せば、経営の厳しさが増すと考える。「操業時だけでなく、増員や設備投資にも手厚い支援は必要。事業者の段階に応じた対策を国に求めたい」と切実だ。
働く場を生み出し続ける自立補助金。だが、帰還や定住の促進といった本来の目的にどこまでつながっているのか。被災地には疑問の声が渦巻く。(文中敬称略)