福島のニュース
「霞が関状態」。福島県飯舘村のある職員は近年の村内の状況をこう表現する。日中は事業所を中心に働き手で、にぎわう。ただ、居住している人は限られ、大勢が近隣の福島市や南相馬市に帰宅する。昼と夜で滞在人口が異なる東京都の官公庁が集中する地区に地元をなぞらえた形だ。
村内在住者の雇用割合はどの程度か―。村内の自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金(自立補助金)の採択企業に尋ねると、1~2割程度にとどまることが判明した。このうち、長泥地区で堆肥製造施設を運営するイイタテバイオテックには正社員11人が勤めている。村内在住者は2人。対して村外からの通勤は9人だ。移り住む選択をする人は限られ、宮城県から通う人もいる。「村内に住み、働くというイメージが湧く人がそもそも少ないようだ」。担当者はため息交じりに話した。
「企業を呼び込み、雇用を生むことで定住に結び付ける」。自立補助金はこの目的に基づき、県内や浜通りに移り住むなどした人を対象とする「地元雇用」を企業への補助要件に設定した。避難者の帰還や正社員らの移住などで一定の役割を果たしている。ただ、労働力確保や避難者支援の観点から「立地自治体に住む」との規定は設けず、近隣からの通勤も可能とした。このため一部地域では企業立地の効果が十分でなく、住む上で利便性が高い自治体への「分散」を生んでいるとの見方もある。
採択件数が少ない上、地元在住者が限られている状況に、飯舘村商工会長の鹿山真広は「補助金の目に見える成果が十分とは言えない」と断じる。人口が戻り切らない中、会員事業所のうち村内で再開したのも約半分の78にとどまっている。
市町村や経済産業省は自治体内の地元雇用の割合のデータは「把握していない」とする。どの程度の住民の帰還・移住に結び付いているのか、具体的な成果が不透明な点も有識者から問題視されている。
「地元に娯楽施設がなく精神的に不安定となり、転勤させた」「不便さを理由に半年で辞めてしまった」。避難指示が出された12市町村の事業者からは生活環境が整い切らない中、若い世代の定着に苦労する現状が聞かれる。
復興が進む飯舘村でも診療所は週に2回の営業のみと医療体制を含む生活環境整備には課題が残る。旧相馬農高飯舘校の敷地を含む約11ヘクタールで産業団地の整備を進めている中、村づくり推進企画課定住係長の松下義光は「産業団地造成や企業誘致と並行して生活環境の整備を今まで以上に進めないと人は定着しない」と複雑化する被災地の課題を語る。
来年3月で発災から15年となる中、被災地の人々は雇用創出と見込んでいた帰還・移住の成果の乖離[かいり]を目の当たりにしている。「企業を呼べば人が戻る。復興はそんな単純な話ではなかった」。ある首長は現状を憂う。自治体関係者は企業誘致後を見据えた計画的なまちづくりをこれまで以上に求められている。
一方、国も自立補助金と被災地の生活課題解決のつながりの弱さを課題として認識。制度の改善に向けた検討に入るなど模索を続けている。(文中敬称略)

