福島のニュース
福島県会津坂下町の曙酒造は酒類の消費拡大と地元の活性化に向け、日本酒の酒蔵としては珍しいワイン造りに乗り出す。敷地内にワイナリーを整備し、観光や交流の場として売店やサウナを併設する。この冬に建設工事を本格化させ、来年11月にも会津産ブドウを使ったワインの販売を始める計画だ。新たな挑戦を通して日本酒をはじめとした「福島の酒」の門戸を広げるとともに、愛好家や観光客を町内に呼び込むなど新たなつながりを「醸す」きっかけとする。
「日本酒とワイン。一緒に提供できれば、もっと福島を楽しんでもらえるはず」。6代目社長の鈴木孝市さん(41)が新たなワイナリーの模型を前に決意を語る。敷地内にそびえる桜をモチーフにした木造平屋とし、会津地方の各農場で生産したブドウを原料に醸造する。日本酒とワインの蔵見学会などで大勢の人に足を運んでもらう計画だ。
構想は7年以上前にさかのぼる。酒造りを通じて福島の魅力を表現する中で、世界中で親しまれているワインへの関心が高まったのがきっかけだ。2018(平成30)年から会津若松市や喜多方市で、原料から理想とする酒にしようとブドウの栽培を始めた。ワイナリーでは第1弾として辛口の白ワインを造る。ワインの下地であるブドウジュースは甘さと酸味のバランスが絶妙な味わいに仕上がっており、今月下旬から販売する。
来年春には会津坂下町にもブドウの苗木を植えるなど地元産へのこだわりを見せる。建物の整備には町なども支援しており、古川庄平町長は「新しい動きが出るのは喜ばしい」と歓迎。今後はワインをふるさと納税の返礼品とするなど、観光資源としての活用を検討するとしている。
地元の酒店などによると、海外の和食ブームが日本酒の消費に必ずしも結び付いておらず、「魅力はまだまだ伝わっていない」と感じるという。鈴木さんは海外の酒文化を知り、実際に造ることで輸出やインバウンド(訪日客)需要のさらなる拡大につなげたいとの思いを描く。
曙酒造は昨年、創業120周年を迎えた。鈴木さんはこれまで地元産ヨーグルトを使った日本酒ベースのリキュール「スノードロップ」を開発。伝統を重んじるだけでなく革新的な事業にも挑み続けてきた。ワイナリーに併設するサウナも町内の人口が減少する中、地域ににぎわいを生む拠点とする新たな試みの一環だ。燃料にワインの原料のブドウの剪定[せんてい]木を使うなど随所にアイデアを盛り込んでいる。
「地元で心を込めて育てたブドウを醸して一本のワインができた時にどんな景色が見えるのかが楽しみ。地域を照らす光としたい」。歴史を築いた先人に感謝し、新たな挑戦に心を躍らせている。

