福島のニュース
今年4月、23歳だった福島県相馬市の金子丈[たける]さんは自ら命を絶った。昨年11月から亡くなる直前まで、知人らから繰り返し集団暴行を受けていたことが後に分かった。加害行為の中心を担ったとされる男は傷害などの疑いで逮捕され、1日に執行猶予付き有罪判決を受けた。暴行と自死を結び付ける証拠はない。それでも、丈さんの両親は息子が自死した理由を知りたいと法廷に足を運び続けた。だが、最後まで納得できる答えは見つからなかった。「息子はなぜ、死を選ばなければならなかったのか」。やるせなさが込み上げる。■胸騒ぎ
「産んでくれてありがとう」。4月16日午後6時ごろ、丈さんから突然、母親にLINE(ライン)のメッセージが届いた。母親はすぐに電話をかけたが応答はなく、胸騒ぎがした。捜索願を出そうと警察署を訪ねると、「ダムに車が入って行った」との目撃情報が寄せられた。引き揚げられたのは、丈さんの車だった。午後9時ごろ、病院で無言の対面をした息子の姿は変わり果てていた。顔は大きく膨れ上がり、鼻の骨は折れていた。
丈さんは地元の高校を卒業し、当時は水産加工関連の会社で働いていた。幼い頃から生き物が好きでクワガタを飼育したり、捨て猫を抱きかかえて帰ってきたりと、誰よりも命を大切にする子どもだった。母親と海や野池に出かけては、釣れた魚の大きさを競い笑い合った。4月下旬には父親とプロレス観戦に行く約束をしていた。
日常を送りながらも、丈さんはたびたび暴行を受けていた。しかし、それを周囲に打ち明けることはなかった。■6人逮捕
丈さんの死後、県警は捜査を開始。丈さんが昨年11月から4月にかけ、4回にわたり暴行を受けていたことを明らかにした。人通りの少ない場所に呼びつけられ、複数人から一方的に殴られ、コンクリートの地面に投げ飛ばされた。これまでに関与した計6人が逮捕された。
このうち、主犯だったとされる相馬市の男(20)は計4回逮捕された。丈さんが死亡した4月16日には未明と午後の2回にわたり呼び出し、それぞれ暴行を繰り返した。犯行の様子が記録されている可能性がある車のドライブレコーダーを処分するなど、捜査から逃れるような行動も取っていた。
男は11月の被告人質問で、丈さんとは3年ほど前に知り合い、友人関係だったが女性関係などを巡るトラブルから暴行したと説明。法廷で「けがをさせてしまい、申し訳ありませんでした」とこうべを垂れた。検察側は論告で「さしたる理由もないのに呼び出し暴行を加え続けた」と非難した。
母親は被害者参加制度を使って意見陳述し、震える声で訴えた。「(息子は)自分の意思で命を絶ったが、暴行が精神的苦痛を与えた。被告の行為がなかったら今も生きていた」■猶予判決
地裁相馬支部は1日、暴力行為等処罰法違反や傷害などの罪で男に懲役3年、執行猶予5年(求刑懲役5年)の判決を言い渡した。岩田真吾裁判官は「傷害の程度が重篤とは言えず、実刑を選択すべき事案とは認め難い」と結論付けた。
母親は「捜査を尽くしてくれた県警、検察には感謝している」と話す。一方で、繰り返された暴行と自死の因果関係は示されなかった。両親は「精神的に追い詰められた部分は証拠には表れない。やりきれない」とこぼした。息子の死を通し「暴力は人を追い詰める。そのことを分かってほしい」と訴える。

