【復興検証 震災・原発事故15年】第1部 産業復興❼「進出後」の逆風 乏しい経営支援 企業増え課題多様化

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【復興検証 震災・原発事故15年】第1部 産業復興❼「進出後」の逆風 乏しい経営支援 企業増え課題多様化

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件数や業種が増加し続ける被災地への企業進出。福島県の相双地区では2011(平成23)年から14年間の工場立地件数が170件と発災前の1・3倍に上る。操業に当たっては国の手厚い補助金という名の追い風を受けている。ただ、進出後に一転して想定を上回る経営の厳しさという逆風にさらされるケースは少なくない。
「住民の少なさから思うように売り上げが確保できず、赤字となる寸前だ」「資材、電気代が高騰し、費用が見込みより膨らんでいる」などと企業が増えた分だけ経営課題は多様化している。国は産業復興で最も困難なのが事業者の誘致とみて力を割いている。一方で、経営継続に関する支援の手は進出事業者にとって「落差を感じるほど乏しい」と映る。
復興に向けた歩みを進める葛尾村で、中心部に整備された産業団地は3区画全てが埋まった。ただ、村内の商工業関係者は「補助金があっても順風満帆とは言い難い」と実情を明かす。
進出第1号の金泉ニット(愛知県岡崎市)は2018年6月に工場を稼働したが、本社の破産を受けて6年余りで廃止を余儀なくされた。新型コロナウイルスによる外出自粛をきっかけに主力のニット製品が販売不振に陥ったとされる。同じくデータセンターを核とした施設を建設するオレンダワールド(東京都)は3月の操業開始を予定していたが、計画から大幅に遅れて今秋に着工した。
ともに国の自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金(自立補助金)の採択企業で従来にない規模や業種だ。村商工会で経営指導員を務める遠藤正紀(62)は「問題の解決に寄り添いたいが小規模な商工会での支援や助言には限界がある」と、複雑化する産業復興への課題との「ギャップ」が生じている状況を明かす。
ただ、国の施策には進出企業への赤字補塡[ほてん]や経費上昇分の補助など特例はない。基本的には市町村ごとの電気代補助など一般企業向けの支援にとどまる。理由について復興庁関係者は「財源の問題だけでなく、被災地の自立の観点からも経営支援は限られる」との説明に終始する。
10年にわたり企業訪問などに取り組む福島相双復興推進機構(官民合同チーム)の、総合政策課長の神田浩輝は「住民帰還が頭打ちとなり、人件費の高騰で経営に苦しむ事業者は増えている」と現状を説明。定着に向けた販路拡大や人材確保など伴走支援の必要性が増しているという。
特に、重要となるのが進出企業と元々地元にいた企業同士の結び付けで、取引先拡大など産業復興に向けた相乗効果を生み出すことが急務となっている。「自治体や商工会だけでは手が及ばない地域も増えている。事業所の課題に応じた細かい伴走支援が一層大事になる」と展望を語る。
復興に向けた地元への経済効果の波及―。被災地の産業創出などの長年の課題となっているが実績は不明瞭なままだ。(文中敬称略)