福島のニュース
「働く場は確かに増えたが、地域活性化の面ではまだまだだ」。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の発生から来年で15年となる中、福島県楢葉町商工会長の木村重男は産業復興への厳しい見立てを示す。
自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金(自立補助金)を中心とした国の後押しで企業進出は進んだ。一方、町内の2022(令和4)年度の域内総生産(GDP)は313億円(建設業除く)で、発災前の4割と全域で避難指示が解除された自治体の中でも回復の動きは鈍い。地元事業者には期待したような取引の増加、商圏や販路の拡大などの恩恵が少ないという。
こうした声を受け、経済産業省は2021年度、自立補助金に地元との取引を採択要件に加えた新たな枠を創設。ただ、これまでの採択は17件でサービス・製造業の対象枠の利用194件の1割にとどまる。先端技術を持つ進出企業と被災地の事業者とでは、協業が成立しづらい「ミスマッチ」も指摘されている。
「企業誘致による経済効果の波及は不十分」。そうした意見は避難指示区域が設定された12市町村の商工会長を対象に福島民報社が行った国の施策についてのアンケートでも目立った。
自立補助金について「どちらかといえば成果が挙がっている」と評価したのは9人(75%)。ただ、制度自体は有用としながらも課題を同時に挙げる回答が多く見られた。
双葉町商工会長の岩本久人は「経済効果は実感しづらい」と指摘。大規模企業進出の効果を認めながら小売りなど地元事業者への恩恵はまだ少なく、交流や連携強化の必要性も挙げた。大熊町商工会長の蜂須賀礼子も「地域への経済効果が分かりづらい」などとした。
「どちらかといえば成果が挙がっていない」としたのは3人(25%)。飯舘村商工会長の鹿山真広は「事業者の再開も村外が多く、地域内経済の回復にはつながりにくい」と厳しく指摘した。富岡町商工会長の遠藤一善は立地件数の増加に町内の居住者数の回復が追い付いていない現状などを理由とした。
国の産業復興策の効果を地域にいかに根付かせるか―。新産業振興に携わってきた千葉大名誉教授の野波健蔵は被災地で長距離輸送用ドローンなど最先端の技術を生み出し、産業化する重要性を説く。福島国際研究教育機構(F―REI、エフレイ)の研究成果を核に製品を量産できる体制の整備、地元が身近に関わる仕組みの定着が特に大切という。「補助金は産業集積の潤滑油となる。政府による手厚い支援は今後も必要」とも主張する。
自立補助金を巡っては、採択企業の辞退や廃止率の高さ、支援内容の地域差への懸念、人手不足の実態とかみ合わない課題などが浮かび上がった。企業誘致だけでなく、経営支援や生活環境整備など同時に進めるべき対策は多い。「産業復興に向け、国には実態に対応した施策の改善、新設に当たってほしい」。再生の途上にある被災地からの声は高まっている。(文中敬称略)■自立補助金の効果をどう受け止めるか
▼どちらかといえば成果が挙がっている=9
都路、小高、川俣、広野、川内、大熊、双葉、浪江、葛尾
▼どちらかといえば成果が挙がっていない=3
楢葉、富岡、飯舘■被災地で再開・進出した会員企業の経営状況について
▼どちらかといえば順調な事業者が多い=4
都路、川俣、大熊、双葉
▼どちらかといえば課題がある事業者が多い=6
小高、楢葉、富岡、川内、浪江、葛尾
▼課題がある事業者が多い=2
広野、飯舘※田村、南相馬両市は都路、小高に代表で聞き取り
=第1部・産業復興は終わります=

