【師走 ひと模様】開店52年、幕は笑顔で 福島市のスナック「ボア」店主の新井久美子さん

  • [エリア] 福島市
【師走 ひと模様】開店52年、幕は笑顔で 福島市のスナック「ボア」店主の新井久美子さん

福島のニュース


「元気だった?」「久しぶり」。夕闇に包まれた福島市陣場町。ビル5階のスナック「ボア」になじみ客が一人、また一人と顔を見せる。出迎えるのは店主の新井久美子さん(72)。再会の喜びと一抹の寂しさを胸に、慣れ親しんだカウンターから笑みを振りまく。










県都の繁華街に店を構えたのは1973(昭和48)年6月。福島女高を出てOLを夢見たが、職に恵まれなかった。幼子を抱えた女性が生計を立てるすべは限られていた。「夜の道しかない」と腹をくくった。開業資金を用立てようと金融機関を巡っても、未経験の20歳に世間は冷たかった。地元の信金だけが「若さと熱意を買って」融資してくれた。恩義は今も忘れていない。
赤字を出したらやめる。そう覚悟し、接客や経営を一から学んだ。誠意あるもてなしで常連を徐々に増やし、軌道に乗せた。経営者ら地位ある人が店では肩書を外して心を開いてくれる。意気に感じて励んだ。






震災にコロナ禍。幾度の試練も「お客さんの笑顔と笑い声」のために踏ん張った。開店から52年。衰えを感じる場面が増えた。歩みを顧みると未練より達成感が勝り、引き際と悟った。「元気に接客する姿で皆さんの記憶に残りたい」。年末に最後の一人を見送るまで、磨いた笑顔で走り切る。