福島のニュース
28日に千葉県の中山競馬場で開催される中央競馬の年末の大一番グランプリ第70回有馬記念(2500メートル芝)。競馬ファンの投票で人気を集めた16頭が出走する大舞台に、福島県天栄村の競走馬調教施設ノーザンファーム天栄から牝馬初の有馬記念連覇を狙うレガレイラ(4歳・木村哲也厩舎[きゅうしゃ])が出走する。4日の第2回中間発表では約46万票の支持を得て堂々の1位。彼女を支えるのが厩舎長の杉森一博さん(56)だ。「30年のキャリアで唯一、有馬記念に送り出したのが彼女。力を出し切れるように努める」。最高の仕上がりで、女王の有馬2連覇への挑戦を後押しする。
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京都府出身の杉森さんは進学先の北里大で馬術部に入り、馬との縁が生まれた。乗馬を繰り返す中で、体調や気分、どう走りたいかなど人馬一体となる感覚を味わい、のめり込んだ。卒業後、一般企業に就職したが「やっぱり、馬に関わる仕事がしたい」という思いが募る。27歳となった1996(平成8)年、北里大時代の先輩を頼って桑折町の資生園早田牧場に再就職。育成スタッフとしての歩みを始めた。
2002年に早田牧場からノーザンファーム天栄(旧天栄ホースパーク)に移り、数百頭もの競走馬の育成に携わってきた。育成スタッフとしての生活は「失敗から学び続ける日々」だという。競走馬はガラス細工のようにデリケートで、一度のけがで引退となるケースは珍しくない。育成スタッフによるレース前後のケアが競走馬の命運を分ける。送り出した管理馬たちが敗れたり、引退したりする姿を見るたびに「改善すべき点があったのではないか」と省みて管理体制を見直し続けてきた。
所属するノーザンファームは最高グレードGⅠで9勝のアーモンドアイやレーティング世界1位に輝いたイクイノックスを送り出した競馬界の名門。杉森さんの担当馬はGⅡやGⅢの重賞レースで活躍を見せたが、有馬記念のみならずGⅠに縁遠かった。
そんな中、2023(令和5)年に出会ったのがレガレイラだった。「大人しくて良い子」という印象の彼女が「まさかGⅠで勝つとは思わなかった」。牝馬が牡馬に勝つのは難しいとされている。2017年にGⅠとなった12月の2歳限定レース「ホープフルステークス(2000メートル芝)」はこれまで牝馬の勝利がなかった。迎えた本番、レガレイラは圧巻の末脚を披露し、ファンを驚かせた。杉森さんにとってもGⅠ初勝利となった。
有馬記念は「競馬に関わる人なら誰もが憧れるレース」。活躍する名馬たちを横目に「いつかは自分の担当馬も」という秘めた思いはあった。昨年の夏場は勝ちきれないレースが続いたが、ファンの後押しで杉森さんにとっても初の有馬記念への挑戦がかなった。精いっぱいの管理でレガレイラを送り出した。昨年末、大一番を現地で見届けたい思いもあったが「現地に行くと担当馬が負ける」というジンクスを恐れ、矢吹町の自宅で祈るように見守った。結果はハナ差の死闘でレガレイラが勝利。3歳牝馬の有馬記念制覇は64年ぶり2頭目の快挙だった。これまでに感じたことがない喜びが全身を巡った。
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今年のレガレイラは11月16日の牝馬の最強決定戦GⅠエリザベス女王杯(2200メートル芝)を制するなど有馬2連覇に向けて盤石な強さを見せている。レガレイラの顔を見ながら話す杉森さんの表情が緩む。レガレイラも安心しきったように杉森さんに体を預ける。コンビの絆が垣間見えた。
狙うはシンボリクリスエス以来22年ぶりとなる有馬記念連覇だ。達成すれば5頭目で、牝馬では初となる。クリストフ・ルメール騎手の騎乗が決まった。「これ以上ないと納得できる形で送り出す。彼女が力を出し切ることを心から願う」と意気込んだ。
2025年の活躍馬、人気馬がひしめく真冬の決戦を制するのは果たして―。※競走馬調教施設
日本中央競馬会(JRA)厩舎[きゅうしゃ]の美浦トレーニングセンター(茨城県)と栗東トレーニングセンター(滋賀県)とは別に、調教師管理の競走馬を育成・調教する施設。通称「外[がい]厩[きゅう]」。レース前の体調管理やレース後の休養をはじめ、故障から回復した馬やデビュー前の若い馬の育成・調教も担う。レースの約1カ月前まで外厩で管理し、その後は所属厩舎で調整しレースに出走するのが主流。ノーザンファーム天栄は美浦トレセン所属の関東馬を管理している。栗東トレセン所属は関西馬と呼ばれる。

