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12日に福島県双葉町教委などが発表した清戸迫横穴墓群[きよとさくよこあなぼぐん]の新たな彩色壁画は「偶然」の発見だった。東京電力福島第1原発事故に伴う帰還困難区域の一部避難指示解除を経て、再開した調査の過程での発掘。長期の避難により立ち入りがままならず、最初の壁画の保存や管理で苦労を重ねてきた関係者は喜びに浸った。町民は「被災地に誇りになる」と歓迎。今後の保存活用、将来的な一般公開に期待を寄せた。
「まさか…」。ちょうど1年前の昨年12月13日。町の学芸員を務める横山裕紀さん(24)が83号横穴墓入り口の小さな穴をライトで照らした。赤色で描かれている線が見えたため、内部に入ると彩色壁画が広がっていた。2022(令和4)年に清戸迫横穴墓群の一部が避難指示解除されたのを受け、町教委が横穴墓の保存計画の策定に乗り出した直後だった。
これまでも穴の存在は分かっていたが、内部は未確認だった。記者会見に臨んだ横山さんは「あの時、なぜか気になってライトを当てた。見つかったときは本当に驚いた」と振り返り、「学術的に大きな意味がある発見になる」と強調した。
清戸迫横穴墓群は東日本最大となる304基の横穴墓が確認されている。1967(昭和42)年に人物や渦巻き模様などの彩色壁画が見つかった「76号横穴墓」は1968年5月に国指定史跡となった。原発事故発生前は横穴内部の温度や湿度のデータを管理してきたが、帰還困難区域となり、長期間電気が通らなくなった。リアルタイムで確認できないため、避難の中でも町教委の担当者が許可を得て暗闇に入り、壁画に傷みがないか慎重に調べてきた。
舘下明夫町教育長は「あの時の作業があるから今がある」と当時を回想。今回の新たな壁画は地域の復興を後押しする存在になるとし、「新しいまちづくりの力にしなければならない。関係機関と有効的な保存活用の在り方を探る」と決意した。一方、横穴墓にはまだ帰還困難区域が残るため、国と調整を重ねながら慎重に調査するとした。
76号横穴墓は原発事故発生前、定期的に一般公開がされていた。町内に暮らす無職国分信一さん(75)は何度も足を運んでおり、「新しい壁画の発見はうれしい限り。将来的に現地で見てみたい」と声を弾ませた。

