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福島県郡山市にある産総研福島再生可能エネルギー研究所(FREA)は、薄くて軽い日本発の次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」の実証拠点を新設する。来年2月末までに関連設備を整備し、来夏の稼働を予定。政府は大規模太陽光発電所(メガソーラー)の支援制度を廃止し次世代太陽電池の普及にかじを切る方針で、県内企業と連携して福島県で蓄積した実証データや知見を早期の社会実装につなげる。
FREAは国内唯一の再エネに特化した国の研究機関で、次世代太陽電池の実証拠点を整備するのは産総研で初めて。
ペロブスカイトはフィルムのように薄く、軽く、折り曲げることができる。従来の太陽光パネルでは設置が難しかったビルの壁面や車の車体、重量制限のある柱の少ない体育館や小さい工場の屋根、起伏のある地面でも使用可能。立地のスペースを省略できる利点がある。大手メーカーや自動車部品大手などが相次いで開発に乗り出している。
実証拠点は県の補助金を活用し、約150平方メートルの土地に建屋を新設する。窓にはガラス建材と一体化した透過型の太陽電池を用い、室内にさまざまな計測機器を備える。建屋南側の敷地約380平方メートルには、屋根を模した横長の架台を三つ置く。ペロブスカイトをはじめ、最大8種類の次世代太陽電池を架台に設置する。壁面への設置を想定した垂直式の実証設備も設ける。
年間を通じて発電データを収集し、各メーカーの製品ごとの特性、長所や短所などを見える化する。効率的な設置工法や適切な管理方法に関する知見を発信し、国内企業による商品開発・改良、量産化を後押しする。FREAと連携する地元企業による事業化や県内への普及につなげる。
次世代太陽電池は設置場所の選択肢が広がる一方、設計や施工のノウハウを持つ人材の育成が課題だ。FREAは実証拠点を活用し、県内企業を対象にセミナーや講習会を催し、専門人材を育成する。産総研太陽光システム研究チームの大関崇チーム長は「次世代太陽電池の導入拡大に必要な設計や施工、運用に関するデータを収集する。地元企業の事業化や人材育成を支援していく」と意気込む。
東日本大震災と東京電力福島第1原発事故発生後、政府は再生可能エネルギーの導入拡大を推進してきた。ただ、メガソーラーを設置しやすい平地は徐々に限られ、山林を切り開く開発が増え、地域住民と事業者が対立するケースが全国で相次いでいる。高市早苗首相は10月、就任後初の所信表明演説で、エネルギー安全保障に関して「原子力やペロブスカイト太陽電池をはじめとする国産エネルギーは重要」と明言し、次世代太陽電池の社会実装を急ぐ考えを示した。
県はJヴィレッジ(楢葉・広野町)など、県内の公共施設3カ所でペロブスカイト太陽電池を設置している。さらに候補地を30カ所以上調査し、設置実績の拡大を目指す。※ペロブスカイト太陽電池
日本発の次世代技術で、軽く折り曲げられる。従来のパネル状のシリコン型太陽電池では困難だった建物の壁面や曲面に設置できるため、平地の少ない国内で「再エネ拡大の切り札」として期待されている。主原料は日本の産出量が世界第2位のヨウ素で、国内で安定調達が見込める。コスト低減や耐久性向上が量産化に向けた課題とされる。

