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福島県浪江町の石沢孝行さん(58)=西郷村に避難=は東日本大震災・原子力災害伝承館(双葉町)の職員となり、初の新年を迎えた。川添芸能保存会長として町民らの避難先を巡る中、震災と東京電力福島第1原発事故の風化への危機感が募った。「自分が古里の今を伝えたい」と自動車整備業から転職し、来館者に被災体験や保存会の活動を伝えている。災害から15年となる3月に向け、来館が増える団体客らに自らの言葉で記憶と教訓を発信し、復興に貢献するつもりだ。
「避難場所を必ず確認しておいて」。館内の案内時に来館者に必ず伝える言葉だ。悲惨な出来事を繰り返したくない―。複合災害を経験した身だからこそ伝えられるエピソードを交えて展示物を紹介している。
震災と原発事故に伴い古里を追われ、2015(平成27)年に西郷村に落ち着いた。震災前の自営経験を生かして自動車整備会社に勤めた。
生まれ育った浪江町川添に伝わる川添芸能保存会に30歳で加わり、伝統民俗芸能「川添の神楽」を披露してきた。神楽は約120年の歴史を持ち、正月は地元の各戸を回り、無病息災や五穀豊穣[ほうじょう]を願う。原発事故で活動休止を余儀なくされたが、「歴史を途絶えさせたくない」と会長を継いで2015年に復活させた。町民が身を寄せる中通りの仮設住宅を訪ね回ると、涙を浮かべながら「ありがとう」と感謝された。「伝統は守り続けるのが大切」との思いを強くした。
仕事と活動を両立する中で歳月の経過に伴い震災や原発事故の話題に触れる機会が減っていると感じた。幼い子どもを見るたび「複合災害を知らない世代が増えていく」と痛感した。
風化の進行への不安が膨らんでいた昨年8月。伝承館の元研究員の知人に案内役の職員を募集していると聞いた。「最後は古里の力になれる仕事がしたい」と応募し、約40年間携わってきた自動車整備業から58歳で転職した。
西郷村から片道約2時間をかけて週5日通う。県内を転々とした避難生活や限られた人員で伝統芸能を守る苦悩…。来館者の質問に対し、自身の経験を包み隠さず明かす。「まだ帰還困難区域があるのか」といった反応から、被災地の実態と一般の認識の「ずれ」を感じることも少なくない。自分の案内が「風化を防ぐ一助になれば」と願う。
仕事始めは4日だ。「この地を訪ねた意義を感じて帰ってもらえるよう、被災地の今や防災の大切さを届けていく」と意気込む。

