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福島県双葉町の復興のために移住を決めた、それなのに町内に居を構えられない―。まちづくり団体・ふたばプロジェクト事務局次長の土屋省吾(60)は東京電力福島第1原発事故の被災地で直面した移住の厳しい現実を明かす。
広告代理店勤務時と経済産業省出向時に、福島に関わるようになった。転職と東京から単身での移住を決意したのは地元の一員として復興に携わるためだ。
「自分の住む家くらいあるだろう」。気軽に考えたが、すぐに甘さに気付く。連日探しても双葉町内の物件は全く見つからない。空いていたのは約15キロ離れた富岡町のアパートだけだった。問題は通勤の不便さだけでは済まなかった。「あの人は双葉町の住民じゃない」。町に住まないだけで心ない言葉を投げかけられた。「地域のために働いているのに…」。やるせない思いが込み上げた。
「住環境は厳しい」。相談を受ける中で、町内の住居不足を伝えると諦める人も出ているという。「双葉を好きで選んでくれる人のため、移住の受け皿づくりをもっと支援すべきだ」と警鐘を鳴らす。
「突然『壁』に阻まれたようだ」。避難指示が出された12市町村の関係者は直近の移住の現状をこう表現する。国は手厚い支援金や相談体制の強化などで後押ししてきたが、伸びに陰りが見え始めた。
福島民報社が12市町村に取材したところ、2024(令和6)年度の移住者数は計1345人で前年度比10人増にとどまった。2022年度は180人増、2023年度は420人増だっただけに失速は明らかだ。今年度も上半期時点で前年度の半数を下回る自治体があった。全国で定住人口の確保に向けた競争の激化も背景の一つにあるとみられる。
ただ、被災地ならではの課題も横たわる。「就きたい仕事が見つからない」「地域になじめるか不安だ」。急増する移住希望者から不満が漏れるように、地元は受け入れ環境の整備が追い付かなくなり始めた影響も大きいとみる。特に深刻とされるのが住居不足だ。原発事故被災地では環境整備のため国費で約1万9千棟の家屋解体が進んだ。新築の動きも限られる中、条件に合った住まいを見つけるのが難しくなりつつある。
国の動きは鈍く、被災地からは大きな不満が漏れる。復興庁は昨年5月、住居確保の地元市町村との連絡会議を発足。移住・生環加速班の箕口陽子は「活用できる施策や補助事業、参考となる好事例の紹介などに力を入れている」と説明する。しかし、ある町の担当者は「状況の改善につながっていない。情報共有ではなく、具体的な対策案などを打ち出してほしい」と訴える。双葉郡の不動産業者の男性は「住宅が足りなくなると見越して家屋の一部は解体でなく、活用すべきだった。国の見通しが甘過ぎたのでは」と批判する。
不足が認識されながらもなぜ住まいの新築が進まないのか。関係者は被災地特有の事情と住宅行政ならではの制度の課題があると指摘する。
政府は被災地の住民の帰還が伸び悩む中、2020年度に復興基本方針の改定などを行い、移住定住促進を復興施策の柱に位置付けた。帰還と一体となった環境整備には年間500億円超の予算が充てられる一方、急速に増える移住に対して制度が合わなくなりつつある。改善すべき課題を検証する。(文中敬称略)

