福島のニュース
「グッドモーニング、エブリワン!」。教室に明るい声が響く。生徒の視線の先で、全盲の英語教諭・小椋汐里さん(27)=福島県会津若松市出身=がほほ笑んだ。勤務する仙台市の台原[だいのはら]中で、劣等感や孤独感を抱く多感な時期の生徒と向き合い、願う。「個性を認め合って、誰もが楽しめる世の中になってほしい」と。自らの姿を通した生きた学びを伝えるため、教壇に立ち続けている。
両目にがんを患い、5歳までに光を失った。だが母利枝[りえ]さんが公園に連れて行くと、ハンディキャップをものともせず遊び回った。その姿に利枝さんは「見えないことを意識し過ぎず、この子を育てよう」と決意したという。
会津若松ザベリオ学園小在学時、テレビアニメシリーズ世界名作劇場の「赤毛のアン」や「若草物語
ナンとジョー先生」と出会った。「いつか物語の世界を訪れてみたい」。海外への憧れが膨らんでいった。
2014(平成26)年、福島市の県盲学校(現・県視覚支援学校)高等部に進学した。同年夏、赤毛のアンの舞台であるカナダのプリンス・エドワード島の地を踏んだ。現地で世界各地から訪れたファンらと交流。互いの母国語は分からなくても、英語で作品愛を共有できた。「英語は魔法の言葉だ」。この時、自らが進むべき道を決めた。
英語を生かす職に就くためには、さらなる学びが不可欠だった。当時、県盲学校から大学に進学した例は少なかった。「見えない」ことを理由に夢を諦めたくない―。入学後の支援に協力的だった東北学院大のAO入試(総合型選抜)に臨み、面接で熱意をぶつけた。2016年に文学部英文学科に合格し、同大初の全盲の学生となった。
就職活動では翻訳家や通訳なども浮かんだ。教師を目指したのは、生徒と関わることで障害への理解を育み、誰もが生きやすい社会づくりにつながると思ったからだ。仙台市で教育実習に臨んだ縁で、同市教委の障害者特別選考を受験。2021(令和3)年に中学高校の英語教諭として採用された。
授業では文書データを点字化する専用機器「ブレイルメモ」を駆使する。スライドや資料の準備に余念がなく、パソコンの読み上げ機能などを用いて綿密に進めている。席順と声で生徒を判別し、挙手でなく言葉や拍手で意思表示してもらう。机の角に触れながら教室内を回り、生徒一人一人との対話も欠かさない。
補佐役の講師加藤恵さんと2人一組で授業を行う。板書や質問対応、授業冒頭の小テストの実施などで支えを受けている。授業を受ける若林璃心杏[りるあ]さん(1年)は「分からない部分があるとすぐに気付いて、優しく教えてくれる」と信頼を寄せる。
小椋さんは生涯で一度も、自身の障害について悲観的になったことはないという。生徒に伝えたいのは「人との違いに悩み過ぎないで」というメッセージだ。周りと同じ色に染まる必要はないと身をもって知っている。授業の合間を縫って講演活動にも力を入れる。「周囲と違っていても、一人ではないということを伝えたい」。曇りのない笑顔に強い信念をのぞかせた。

