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福島県相馬市岩子[いわのこ]の菅野哲矢さん(26)は、地区に300年以上前から伝わる「岩子の神楽」に情熱を燃やしている。神楽は、後継者不足や東日本大震災の津波などで存続の危機にひんしたが、住民が力を合わせて続けている。幼いころから神楽に憧れを抱いてきた。5年ほど前、継承する岩子神楽保存会に入り、若手の中心として活動している。「神楽を通じて地域の絆をつないでいきたい」と誓う。
岩子地区では代々、長男が青年会に入り、神楽をつないできた。菅野さんは幼いころから、神楽が披露される地元神社の例大祭などに足を運び、祖父や父の姿を間近で見てきた。「とても格好よく、演じる舞台に後光が差しているようだった」と振り返る。
しかし、岩子の神楽は苦境に立たされた。担い手が減少し、2008(平成20)年から活動が滞っていた。さらに、震災の津波で集会所に保管されていた神楽の祭具は海水や泥をかぶった。
2013年に保存会が結成されると、息を吹き返した。当時、菅野さんは中学生。「いつかは自分も」と心に決めた。5年ほど前、当時の区長から「やってみないか」と入会を打診され、「ようやく来た」と即答した。最初は、祖父や父と同様、太鼓を担当。2年前からは「四方固め」と呼ばれる舞に取り組んでいる。神楽は「先輩の姿から見て覚える」が基本。披露の場は年4回ほどで、練習の機会も限られる。菅野さんは農業や青ノリの養殖業などで多忙な日々だが、自宅で自主練習を行い、技術を高めている。
松川浦に面した岩子地区には震災時、140世帯が暮らしていたが、津波などで20世帯ほどが移住を余儀なくされた。少子化も重なり、現在は105世帯まで減った。ただ、保存会のメンバーは25人前後を維持している。神楽は住民同士の絆を強めるための一つとなっている。菅野さんは「とてもまとまりのある地域。年代に関係なく結束している」と感じている。
力強い援軍も加わった。長男の太陽ちゃん(5)だ。父が練習する姿を見たり、神楽を鑑賞したりすることで自然と動きを覚えた。朝と夜、ユーチューブで岩子の神楽の動画を見るのが日課となっている。「(神楽は)楽しい。将来やってみたい」と心待ちにしている。
あの日から間もなく15年。小学6年生だった少年は今、3人の子どもの父親となった。4月には消防団に入る。地域の安全を守るとともに、活動を通じてより一層、住民との連携を深めるつもりだ。「大好きな岩子をみんなで守り、より良い地域にしていきたい」と目を輝かせている。

