福島のニュース
東京電力福島第1原発事故に伴う避難指示が出された12市町村で、国の重点施策としての移住定住支援が本格的に始まり間もなく5年。移住者数が累計で3千人超に及ぶ中、描いていた理想通りの暮らしが実現し、定着に結び付く例も増えている。一方、定住に当たり、環境や生活について当初の展望との「ずれ」を感じる人も少なくない。
「(出身の)仙台ではない場所で挑戦したかった」。会社員松尾洋輝(30)は福島県飯舘村に移住した際の思いを語る。2020(令和2)年に村の地域おこし協力隊の募集をきっかけに動画撮影などで復興に携わり3年半ほど住んだ。仕事の関係などから一度県外に出たが、「第二の古里」と感じていた飯舘に再び戻ってきた。伸びしろのある地域と感じ、将来的な起業の展望も描いている。
半面、人が少ない中で事業を起こす困難さを実感した。国や自治体に対しても「呼び込むだけ」の取り組みには疑問を感じている。「『自分の地域にはこんな課題がある』『この強みがある人に来てほしい』との視点が欠けているのではないか」と指摘する。自身も幾度も行政とのすれ違いを感じ、合意形成に悩んだ。だからこそ、地域の目指す姿を移住者にはっきり示し、不一致をなくすべきだと感じる。
原発事故により多くの住民や事業者が避難した被災地では新しい挑戦ができる点などを強みとし、移住を呼びかけている。だが、「建物の利用など制約が多く、起業を断念した」「地元に特に歓迎されなかった」と当初考えていた状況との温度差を感じる声や支援の乏しさへの不満が移住者から上がる。解消されないまま地域を去る人が出るなど、こうした「ずれ」が定住を阻む一因との見方も広がる。
ただ、どういった分野の課題が多く、転出につながっているのか。実数の把握は自治体ごとにばらつきがあり、まとまった統計や分析はない。飯舘村は「プライバシーに関わる」と転出理由の聞き取りはしておらず、楢葉町は「把握まで手が回らない」とマンパワー不足を説明する。主導する立場であるはずの復興庁も自治体が取り組んでいないことを理由に被災地を離れた人のデータを持っていないとする。
被災地への定住の強化に向けた分析や、効果的な施策を求める声は高まる。理由の一つが2021年度に始まった12市町村移住支援金の給付条件となっている居住期間だ。世帯で200万円、単身で120万円と他地域の2倍の手厚さを誇る一方で条件として5年以上、被災地に住むことを定めている。新年度に最初の利用者の期限を迎えるに当たり、被災地に住み続けることの課題が解決されなければ大勢の転出が始まる事態も危惧されるためだ。ある自治体の移住窓口には「いつが5年目となるのか」との問い合わせもあったといい、関係者は警戒感を強めている。
「大事かもしれないが、一瞬の呼び込みだけに終わってはいけない」。松尾も支援金だけでなく、定着のための一層の仕組みづくりを提言する。「可能性がある地域だからこそ行政、住民、移住者が手を取り合って歩めるようにしてほしい」と求めている。(文中敬称略)

