福島のニュース
東京電力福島第1原発事故によって壊滅的な被害を受けた福島県の漁業は本格操業への移行期にある。しかし、水揚げ量は伸び悩み、担い手不足にも直面している。海水温の上昇に伴う漁獲の不安定化にも悩まされている。復興への課題、展望を探る。
福島・茨城の県境付近の沖合。黒潮と親潮が交わる「潮目の海」と呼ばれる好漁場が広がる。かつては、両県の漁船が行き来していたが、原発事故以降、見えない「壁」が立ちはだかっている。
漁業者は隣県での漁獲量に格差が生じないよう調整し、互いの海域で操業する入会[いりあい]漁業を認め合ってきた。しかし原発事故を機に中断した。宮城側への入会は一部再開したが、茨城県との間ではいまだ、再開の見通しは立っていない。実質的な議論に至っていないのが現状だ。福島県の水揚げ量が東日本大震災前の水準の3割ほどに低迷している一因になっている。茨城沿海地区漁連は再開に向けた協議の進捗[しんちょく]状況について「答えられない」としている。
資源管理、漁師同士の信頼関係の醸成などの問題が複雑に絡み合う。福島県漁連会長の野崎哲(70)は、震災と原発事故によって格差が生じた福島、茨城両県の漁獲する能力が議論をさらに困難にしていると指摘している。
原発事故発生前、茨城沖での操業許可を得ていた福島の船は約100隻に対し、福島沖での漁を許されていた茨城の漁船は約250隻。福島側に漁獲する能力の高い船が多く、茨城側は比較的、小型船が多かった。
入会漁業は地域ごとの慣例として積み上げられてきたルールだった。船の隻数、漁法を踏まえ、限られた水産資源を分け合ってきた。
しかし原発事故発生後の操業自粛や漁業の制限などが福島県漁師の引退を加速させた。入会の権利を有する福島県の船数は80隻を下回り、操業能力の前提が変わった。野崎は「どの水準で折り合いをつけるのか。双方が納得できる条件を設定するのが難しい」と打ち明ける。
現場の調整が行き詰まる中、国は2020(令和2)年、より厳しく漁獲量を制限する改正漁業法を施行した。8魚種だった漁獲可能量(TAC)管理の対象を大幅に増やす方針を示している。
いわき市沼ノ内漁港の底引き網漁船の漁労長、矢吹正美(62)は新たな規制により、入会の協議がさらに混迷することを不安視する。限られた海産資源を巡り、漁業者間で早取り競争が激しくなる恐れがあるからだ。これまで以上に操業能力の調整に時間を要す可能性がある。
かつては茨城沖まで出向き、年間水揚げ量の8割を取っていた。現在は、原発事故前の半分ほどに漁獲量は減少している。ふと県境方面に視線を送る。「茨城県との入会は再開するのだろうか」とつぶやいた。
一方、福島県漁連の野崎は水産庁に入会協議の調整役を要望してきた。胸の内には地元でできていた調整が、原発事故の影響で困難になっているという思いがある。
ただ水産庁は、入会漁業は地域でつくられてきた慣例だとして、国として介入する立場にはないとしている。
野崎は慣例にとらわれない対応を求める。「もはやこれまでのルールで調整できる規模の課題ではない。国のかじ取りが必要だ」と訴える。(文中敬称略)

