福島のニュース
東京電力女子サッカー部・マリーゼ元選手で同社社員の保格彩乃さん(37)=東京都=は、Jヴィレッジ(楢葉・広野町)の利用促進に携わっている。チームは15年前の福島第1原発事故の影響で休部。23歳で引退後も、福島と関わろうと会社にとどまった。地元の声援を背に競技に励んだ〝サッカーの聖地〟の魅力を全国に伝え、再生を後押ししようと今の業務を志願した。「この場所から福島に恩返しをする」。仲間と汗を流した日々を思い、新たな夢に向かい歩み続ける。
保格さんは昨年7月から本店の立地地域室に勤務。全国の企業や学校を訪ねて施設の魅力を伝え、利用を呼びかけている。Jヴィレッジは全天候型練習場を含むピッチ11面、ホテルなどを備える国内有数のトレーニング施設。プロや実業団、大学、高校などの合宿や企業研修に利用される。優れた環境の半面、トップ層専用の施設と誤解されることも少なくない。「実際は幅広い層に親しまれていると伝えたい」。打ち合わせや案内で東京、福島間を毎月のように往復する。
札幌市出身。小学2年生で競技を始め、中学、高校と地元クラブでプレー。北海道選抜では全国大会3位に入った。入団テストを経て2007(平成19)年にマリーゼに入団した。
双葉町の寮に住みながら午前は福島第1原発で庶務などとして働き、午後はJヴィレッジで練習した。1年先輩の鮫島彩さん(38)のような日本代表に憧れ鍛錬する中、熱心に応援してくれる地元サポーターが心の支えだった。居残り練習後には「頑張っているね」とねぎらわれ、プレー写真を贈ってもらった。「福島の皆さんの温かさ、地域との絆を感じた。恵まれていた」と回顧する。
2011年3月11日はなでしこリーグ開幕に向け、宮崎市でキャンプ中だった。「今季こそ定位置を」と意気込んでいた午後の練習中、コーチやスタッフが切迫した表情で電話しているのに気付いた。「福島で大きな地震があった。Jヴィレッジも被害が出た」。衝撃の宣告だった。
福島第1原発には津波が到来し、水素爆発で放射性物質が拡散した。職場の同僚や双葉郡内の状況が心配で「サッカーをしていて良いのか」と動揺した。
同年夏、事故対応の前線基地となったJヴィレッジを久々に訪ねた。ピッチに鉄板や砂利が敷かれ、駐車場に変貌。廊下や階段に作業員があふれていた。気持ちが折れかけた時、ロビーにかけられたマリーゼのユニホームが見えた。「自分もできることを頑張る」。福島の力になろうと、腹を決めた。
その年の9月に休部が決まった。選手26人のうち24人が他チームに移る中、保格さんは引退を選んだ。選手として活躍の場をくれた会社と、福島の力になりたいと社員であり続けた。埼玉県内で法人営業や原子力補償相談室の仕事に向き合った。双葉町民が身を寄せていた同県加須市の旧騎西高をボランティアで訪ね、弁当配りや清掃などを買って出た。
Jヴィレッジは復活へ歩みを進め、2019年に約8年ぶりに全面再開した。よみがえった施設を訪れる間に「ここにまた戻ってきたい」との思いが募った。Jヴィレッジの運営を支援する部署への異動希望を出し続け、昨年7月に念願の配属がかなった。
「日本中、各国から人々が集う『復興のシンボル』として、福島に足を運ぶきっかけとなる施設にしたい」。大きな夢を思い描く。

