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2月上旬、競りが行われていたいわき市小名浜の魚市場は、静けさに包まれていた。広さ約4千平方メートルの競り場が2015(平成27)年に新設されたが、並ぶ魚介類はわずかだ。
「ずいぶん変わっちまったな」。小名浜で操業する第三政丸の船主、志賀金三郎(79)は、閑散とした競り場を見渡し、表情を曇らせた。かつては漁船のエンジン音が響き、仲買人の大声が飛び交っていた。市場の活気は志賀にとって生きる活力だった。
水揚げが少ない理由は複合的だ。志賀が真っ先に挙げるのは「人がいない」ことだ。「船はあっても、乗る人がいない。若いのが入ってこなきゃ、先の話はできねえ」
県内の漁業者は1980年代から長期的に減り続け、東京電力福島第1原発事故が追い打ちをかけた。農林水産省の調査によると、1980年代半ばに4千人を超えた県内の漁業者は、2000年代に1700人台に落ち込んだ。震災発生後の2013年には343人まで減少。その後回復したが、2018年以降は千人前後で推移している。相馬市ではフグやタチウオなど市場価値のある魚種を積極的に漁獲し、若手漁師が就業している。しかしいわき市では、高齢化して引退し、新規の就業者が増えない状況だ。
他県との差は、隣り合う港を比べると際立つ。いわき市の勿来漁港と、県境を挟んだ茨城県北茨城市の平潟漁港。原発事故発生前、両漁港の漁業者数と漁獲量に大差はなかった。しかし2023(令和5)年のシラス水揚げ量は、勿来漁港が4・6トンだったのに対し、平潟漁港は168トン。勿来漁港の所属漁業者は38人で、70歳以上が4割を占める。一方、平潟漁港は50人、70歳以上は1割余。勿来漁港では、高齢化により、活発に漁が行われていないとみられる。
国は担い手確保に手を打ってきた。水産庁は原発事故発生後、新規就業者の研修費用を補助している。ただ本県の漁業者のみを対象にした2022年度、目標の44件に対し、実績は3件と低迷した。背景には、制度の利便性以前に漁業を志望し、職業にする若者が少ない現実がある。
国内沿岸漁業者の2023年の平均所得は219万円。国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、同年の給与所得者の平均年収は460万円だ。漁業には漁船や漁具の購入、船舶免許や漁業権の取得で多額の初期費用がかかり、新規参入のハードルが高い。
後継者のいない志賀も、自身の子どもたちに漁師への進路を積極的に勧められなかった。「暮らせるかどうかを若いのはちゃんと見る」。生活を支える収入が得られるという安心感が必要だと訴える。
福島大教授で漁業経営を研究している井上健(57)は、行政の支援策について「達成基準が弱く、効果が見えにくい」と漁師の定着に結び付いていないとみている。
こうした中、功を奏している例が宮城県石巻市の漁業者団体の取り組みという。アルバイト紹介サイトと協力し、漁師になる入り口に立ってもらう工夫をしている。多くの人に体験してもらい、漁業の魅力を広く発信できるからだ。さらに漁師の求人を行い、就業者が生活に困らないような住居の確保も行い、収入と生活の安定化を進めている。
井上は石巻市の団体のように生活と仕事の両立を打ち出し、若者にアピールするのが重要だと強調する。「行政の取り組みには限界がある。漁業者が主体となって働き方改革を進める環境づくりが重要だ」としている。(文中敬称略)

