福島のニュース
東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の発生翌年から約3年間、農林水産省の事務次官を務めた皆川芳嗣氏(いわき市出身)は、事務方トップとして福島県農林水産業の復興に力を尽くした。市場流通量が原発事故前の水準に回復していない県産品があることを踏まえ、一層の品質の磨き上げや、安全性のアピールが必要との認識を示した。福島民報社のインタビューに答えた。
〈原発事故で県産の農産物や海産物への風評が起きた。この15年、県内の生産者や漁業者は影響に苦しんできた〉
消費者が福島産の物を忌避する傾向はほとんどなくなっているのではないか。一方で、市場での流通量が震災前の水準に戻っていない品目があることが問題だ。震災後に県産品を確保しにくくなったために、他産地を扱い始め、そのまま今も続いているケースがあるとみられる。県産品に再び目を向けてもらうためにも、継続的に品質を高めていく努力が求められる。
〈県内生産者は農業生産工程管理認証のGAP取得に力を入れている〉
農業者が食品安全、環境保全、労働の安全に力を入れて営農していることを第三者機関が認証している。取得を通じて消費者の信頼を高め、産地間の競争力強化が期待できる。こうした取り組みをますます促進しながら、巻き返しを図ってほしい。
〈福島県産を含む日本の食品は5カ国・地域で輸入規制が継続されている〉
それぞれの国・地域に事情があり、日本との関係性とも複雑に絡み合っている。現時点で改善する可能性が見込めるのは韓国ではないか。首脳同士のシャトル外交が行われ、良好な関係を築いている。近年、韓国からの旅行客は多く、相当数が福島も訪れ、地元産の食材を味わっているはずだ。県産農産物や海産物のおいしさを知っているのだから、機運が盛り上がりやすいと言える。科学的なデータに基づいた安全性を積極的にアピールするべきだ。
〈キノコ類や野生鳥獣は県内の広い範囲で出荷制限が継続している。制限するかどうかを判断する食品中の放射性セシウム濃度1キロ当たり100ベクレルの基準値を見直すよう求める声もある〉
国際機関による基準を踏まえた措置だ。仮に見直す場合、海外で通用する科学的なデータをそろえて議論し、説得力のある説明を社会全体にしていかなければならない。日本の食品の輸入制限を継続している国が納得できる合理性を示さなければ、風評のような問題が巻き起こる懸念がある。15年間で蓄積したデータを詳細に分析し、慎重な議論を重ねる必要がある。
東京大経済学部卒。1978(昭和53)年、農林省(当時)に入った。関東農政局長、林野庁長官などを経て、2012(平成24)年に農林水産事務次官に就任。2015年までの在任中、放射性セシウムの農産物への移行を防ぐ栽培方法の確立などに向け陣頭指揮を執った。71歳。

